17話
一応足掻けるだけ足掻くことにした。
俺は今庭にいる。
明日にでも亡くなってもおかしくない母様のために花の精から種の情報を聞き出すためだ。
「アダラ?」
おそるおそる花に声を掛ける。
するとふわっと風が吹いて目の前に一人の美女が姿を表す。
『あら、こんな真夜中にどうしたの?』
「アダラが前にくれた種のことを教えてほしいんだ」
『あの種のこと……』
「うん。一瞬にして成長なんて出来る?」
『それは無理よ。あの種から生まれる花は繊細なの。悪い環境では育たないし魔法なんかで花を一瞬にして成長させるなんていうのがあるようだけどあの種にそんなことしたら一瞬にして灰になるわよ』
一瞬にして灰………
唯一の頼みの綱が消えた。
でもそう簡単になるとは期待していなかった。だからあんまりガッカリはしていない。
それでもやっぱり唯一の母親が永遠にいなくなるなんてことを考えると胸が締め付けられるほど辛い。
少しでもお礼がしたい。
そして成長したとこを見せてあげたい。
母様の笑顔を最後にもう一度だけでもいいから見たい。
「ユアルス?」
はっとして顔をあげる。
目の前いたのはよくこの庭に来ていたあのおじさんだった。
「……どうして?」
「中から見えてな。ユアルスかと思って来てみたら正解だった」
ニッコリ笑ってそう言うおじさんだったけどこんな暗いと逆に怖い。
「どうしたんだい?こんな夜中に」
「…………か、母親が……いなくなっちゃう」
口に出した瞬間怖くなってきた。
いなくなっちゃうんだ。
あの太陽のような眩しい笑顔を見れなくなるんだ。
あの温かった腕で抱き締めてくれなくなるんだ。
いつの間にかもう一人の母親になっていたんだ。
前世の母親以外のもう一人の母親。
人が亡くなるってこんなに怖くてこんなに辛いことなんだ。
自分が死んだときとは全く違う。
「………」
手が震えてくる。
目と手にギュッと力を込める。
するとポンッと頭に大きな手が乗った。
「エルザがな言ってたよ。お前は自慢の息子だって。エルザにあんだけ愛されてんだもんな。そう思われんのは当たり前だな。ずっとユアルスユアルス言ってて妬きたくなるよ」
ははっと笑うおじさん。
その言葉についに我慢できなくなった涙がポロリと落ちる。
「ユアルス。最後にパーッとなにかしてやろうか」
俺は顔をあげておじさんを見る。
「エルザきっと喜ぶと思うぞ」
俺は涙でぐちゃくちゃな顔で首をぶんぶん縦にふった。
「僕………出来る限りの魔力つかって派手なのやるよ!」
「……魔法…使えるのかい?」
うんと頷くと驚いた顔をするおじさん。
きっと髪が銀色だから魔力が欠片もないと思ったんだろう。
「少しだけならできるんだ。母様に魔法見せたら誉めてくれるかな」
「あぁ……きっとすごい喜ぶぞ」
ふっと微笑むおじさん。
「僕たくさん練習するよ。最後に母様が喜んでくれそうなの。おじさん母様には秘密だよ。」
俺がそう言うとガハハハと豪快に笑うおじさん。
何者なのかはさっぱりわからないがそれでもいいと思った。
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その日から昼の間はフォーマルさんと授業などを夜中はアルナイルさんに見つからないように魔法の研究をした。
それを見ていた精霊たちも強力してくれるらしくいろいろと練った。
一応間に合うかもっていう期待して種も庭に植えた。毎日水やりしてるけどやっぱりまだ生えてこない。
そして時間は過ぎていきついにその時が訪れた。
それは夜中のことだった。俺は精霊たちと話をしていた時だった。
「ユアルス様!エルザ様が……」
アルナイルさんが急いでが俺のところに言いにきた。
「アルナイルさん!母様の部屋の窓を開けといてください」
俺は急いで庭に向かった。
そしてそこから氷の龍をつくってそれに乗った。
「みんなよろしくね!」
精霊たちに頼んで空を飛んでいく。
前もって聞いといた部屋の場所の辺りにつき窓が開いてる部屋を見つけた。
目が夜に慣れてきていてなんとか見つけれたのだ。
「母様ーーー!!!」
俺は自分が叫べる最大の声で呼んだ。
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「エルザ様…………」
部屋のなかで誰もが暗い顔をして薄く目を開けていたエルザを見ていた。
美しかった金色の髪は光沢をなくし青い澄んでいた目は光をなくし、凛々しい顔は痩せこけていた。
「ユ、ユアルスは?」
掠れた声で最愛の息子の名前を呼ぶエルザ。
「ユアルスは部屋で本を読んでるんじゃないかな」
あぁ、ユアルス。急いでくれ
エルザの最後にパーッと何かをやると約束していつも頑張ってなにかをしていたのは知っていた。
しかしもう時間がない。やるんだったら早く早くと気持ちが焦る。
「そう……なの……あぁ、ユアルスを一人にしてしまう」
「大丈夫ですよエルザ様。ユアルスには私たちがおります。一人ではありませんよ」
「そう……カストル殿、ユアルスをお願いしますね」
言い終わると同時に部屋に勢いよくアルナイルが入ってきた。そしてそのまま窓に直行して窓を開けた。
「エルザ様!窓の外を」
アルナイルにそう言われて窓の方に目をやる。
すると窓の外になにかがいた。
暗くてよく見えない。
次の瞬間
「母様ーーー!!!」
辺りに響く高くもなく低くもない声。
「この声は……ユアルス?」
目に若干輝きが出たエルザ。
「ユアルス……?」
カストルが戸惑ったような声をだす。
そして窓の外に写し出されたもの。
それは一生忘れることはないだろうものだった。
突然何かがふわふわと淡く輝く。
それが踊るようにユアルスの周りを回りだしていた。そしてその輝きに照らされたユアルスはなんと龍に乗っていた。
ユアルスが右手をあげると花のような火花が散り、左手を上げれば光に照らし出された氷の小鳥たちが舞う。
なんとも幻想的な世界で誰も声が出せなかった。
「ユアルス……」
エルザを見ると涙をポロポロ流していた。そして一瞬で表れたユアルスはエルザの手をとった。
「母様?僕は本当に幸せでした。いつも一人の時は母様がそばにいてくれて……母様笑ってください。僕は母様の太陽のような輝く笑顔が大好きなんです」
「ユアルス………」
エルザは涙でぐちゃぐちゃになった顔に精一杯笑顔をつくる。
「ありがとうユアルス………愛してるわ」
すぅと息が止まりゆっくり目を閉じていった。
「母様……いい夢を」
その後何分もユアルスはエルザの手を握っていた。
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エルザが亡くなって数日たった。
俺は今ユアルスの部屋にいた。
「ユアルス。これを」
生前のエルザがユアルスにと残していった万年筆だった。
「母様が……」
万年筆はとても稀少で普通の人はまず持っていない。しかし、勉強熱心なユアルスにとオーダーメイドで作った品だ。
「ちなみにインクは永久保存に細工しといたそうだ。」
そう告げると驚いた顔をして万年筆を見る。それから笑みをこぼした。
「おじさん……ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるユアルス。
本当にいい子に育ったと我ながらユアルスを見ていると誇らしい。
「おじさん……おじさんって何者なのですか?」
不意に今更ながら質問を聞いてくる。
「ガハハハッ!今更か!俺はなぁ……この国の国王だよ」
嘘偽りなく堂々と告げるとポカーンとした顔で俺を見てきた。
「国王……?」
まぁそりゃそうだわな。
見ず知らずの誰ともわからぬ人がいきなり国王でしただなんて信じようがない。
「そうか僕は国王様におじさんって言ってたのか……」
なんだか微妙な顔をして呟くユアルス。
本当に顔に思ってることが出ない奴だと思う。
というか普通の人だったら驚いて腰抜かすとこだけどな。
「ユアルス。お前は自慢の息子だよ。俺から見てもエルザから見てもな」
語り掛けるようにユアルスに言うとあのエルザの太陽のような笑みに似た笑顔をしてきた。
「……ありがとうございます。これからも自慢の息子であるように心身ともに成長していこうと思います」
俺はこれが六歳とは到底思えないがユアルスならではだろう。
そんな息子の頭を豪快に撫でた後立ち上がった。
「まぁこれからも勤しむように。頑張りなさい」
ガハハハと笑って俺は部屋を出た。
これからのユアルスの活躍を思うとたのしみが増えた気がした。
次は少年編です。
長いような短いような………
あ、町にこっそり出てみたりという話が少なかったので後で書こうと思います!