16話
「お前ほんとに言わなくてもいいのか?」
暗い部屋の中低い男の声が響いた。
「えぇ……ダメよ」
同じ部屋の中から細い女の声がどこからともなく聞こえる。
「しかし……知らないって言うのは一番悲しいこと何だぞ」
「知ってるわ……あの子の頑張っている姿見たかったわ」
「もう…長くはないんだろう?見に行ったらどうだ」
「………もう、立てなくなってしまって…どうにもね」
「美しい庭……まだ見ていないだろう?」
「えぇけれど仕方のないことよ」
名残惜しそうに呟く女。
「きっとあの子は強く、強く生きていくでしょう。……あの子は縛らないと誓ってちょうだい」
さっきよりも強く強くはっきりと言った。
「わかってる……」
男の悲しそうな声が響くとそれからはもう何も聞こえなくなったのだった。
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「アルナイルさん。母様は?」
この一年くらい母様が来ない。
何かあったのかと不安になったのでアルナイルさんを頼ってみることにした。
「エルザ様ですか……あとで確認しておきましょう」
アルナイルさんの顔に暗い影ができる。
なにかあったのだろうか。
疑問に思いつつも俺は剣の稽古のため部屋を後にしたのだった。
稽古終了後いつものように部屋にいた。
やっぱり最近母様が来ない。
おかしいと思う。あんなに頻繁に来ていたのに。
「………」
絶対おかしい。
でもどうすることも出来ない。
へたにこのドアの向こうに出れば迷ってしまい帰ってこれなくなる。
どうすればいいんだ。
コンコン
ドアのノック音が聞こえる。
ちょっと期待して待つそして表れたのは
「ユアルス!久しぶりだな元気か?」
カストル兄様だった。
こちらも久しぶりだけど期待していた人ではなくがっかりしてしまった。
「なんだなんだ…兄上の訪問にガッカリするなんて悲しいぞ」
「違うんだ……最近母様が来なくて。なんかあったのではないかと」
それを聞いたカストル兄様はあからさまに動揺した。何かあるなこれは。
「何があったの兄様」
カストル兄様に近づいて聞き出そうとする。
「エルザ様はなぁ……忙しいんだよきっと」
違うな。明らかに違うとカストル兄様の目が言っている。
「カストル兄様」
「な、なんだい」
「目は口ほどにモノを言うって知らないの?」
まさに今のカストル兄様はそれだった
「なんだいそれは……」
「目っていうのは口よりもわかりやすいってことだよ。兄様は今まさにそれだよ」
カストル兄様は唖然とした顔で見てくる。
そして次の瞬間動揺した顔で後ろに後ずさっていく
「お、俺はなにも知らんっ!知らん知らん知らん」
首をぶんぶん振るカストル兄様。
脈ありだな。
そんな兄様の袖を掴んで見上げる。
「カストル兄様?」
「~っ!やめろっ!!俺には俺には……そんな趣味は……」
ついには意味不明なことをを言い出すカストル兄様。どんな趣味のこといってんだよ。
呆れたような目をしたいがだめだ。ここが勝負どころ。
「兄様僕にはどうして言えないんですか?なにを言えないんですか?」
「これは口止めされていてだな……」
「誰に?」
「エルザ様にだ」
「体は大丈夫?」
「いや、また悪化……のわー!!!」
誘導尋問成功だ。
カストルさんよちょろいな。
「そうか…母様体が悪いのか」
「いや、誰もそんな」
カストル兄様の話を聞き流しながら考える。
なんかなかったか。あったよね前もらった種。
そう、前に花の精にもらった種は今空間魔法でつくったアイテムボックスてきなやつに入っている。
「どうして僕に言わないの誰も」
ポツリとこぼすとカストル兄様がしゃがんで俺の肩に手を置いた。
「ユアルス。エルザ様に言うなってお願いされたんだよ。こんな姿をユアルスにだけは見せたくないって」
母様の気持ちは痛いほどわかる。
前世の時俺も実際まだ小さかった弟には言えなかった。
自分がもうすぐ死ぬだなんて言えなかった。
最終的に言えないで死んでしまったんだけど。
「ユアルス。実はなエルザ様はもう長くない。明日にでも亡くなってもおかしくない。」
その言葉にぼんやりとした気持ちになった。