誰が為に鐘は鳴る
妹へのクリスマスプレゼントを買いに街に出た男子高校生、麻生竜。
それについていくお節介な部長・根岸恵。
これはそんな二人の応酬の話。
2010年にPixivに上げていたやつをちょーっとだけ変えました。
本家→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=132514
街を歩いていると嫌でもカップルが目につく。
「たっくん」
「何」
「私達も腕、組む?」
「ない」
「はい」
家族の為にクリスマスプレゼントを買いに行くとうっかり部活で口にしてしまったせいで、この御節介部長、根岸 恵というオマケがついてくることとなった。
どれくらい御節介かというと、御節介と検索エンジンに入れて一番上の候補に出てきてしまうくらい、御節介だ。
「ねぇ、さっき通り過ぎた人見た?」
「サンタコスの女子高生?」
「そうそうっ!ああいうの着てみたいよねーっ」
「いや、別に…」
「あ、でも私には無理かもな…」
「だな…」
「胸見て言うなっ!私が言いたかったのはそういうことではないっ!」
「じゃ何」
「寒い中ミニスカとか無理だな…って」
「あー常に腹巻きしてるもんな」
「な、何故それを…」
「してんのかよ」
「だってお腹冷えるとアレがピーピーするんだもん」
「はい、女の子がそんなこと言っちゃ駄目だからね」
「女の子だって生きてるんだよっ」
「どこをどう捻ったらその返答になるんだ?」
「そうだよね」
「いや今絶対俺の話聞いてなかっただろ」
そうこうしてる内に百貨店に着く。
どこもかしこもサンタとトナカイとカップルだらけだ。
「コカコーラ飲みたくなってくるわねーっ」
「はい」
「おっ気が利く―――――」
「ソリャソーダ」
「何それ?!そりゃそーだって何がそーだなの?!」
「ソーダと掛けています」
「そんくらい分かるわっ!」
「サンガリア製です」
「……納得しかけたよっ!」
「ブルガリア製です」
「あ、だからペットボトルに宝石が埋まってるのねっ」
「日本書道協会製です」
「確実にどこかに『これは飲み物ではありません』って書いてありそうっ!」
「水素が混じって健康にいいソーダ水…1200円」
「胡散臭っ!そして高っ!」
「お得な二本セットは2400円」
「単純に値段上がったよねぇ!」
「四本セットは5000円!」
「損だ!」
「千本セットは1000円!」
「安っ!でもいらねっ!」
「今なら気になるあの子のメアドもお付け致します!」
「な、なんだって!」
「やっぱこれだねー、ドラゴンフライの水素配合ソーダ水♪」
「トッポ!?パクった上に語呂悪っ!」
「飲んだらあっかんー飲んだらあっかんー蒟蒻畑飲まずに、これ飲ーんでー♪」
「確かに蒟蒻畑は飲んだらあかん!」
「どうして恵選手は毎日同じ練習の繰り返しで成長出来るのか――」
「水素配合ソーダ水を飲んでるからっす!って言わんわっ!」
「風邪かな?と思ったら」
「青の水素配合ソーダ水を。って言わんわっ!」
「ジョンも飲んでる!」
「誰っ?!」
「僕も飲んでる!」
「知らんっ!」
「人気上昇中の蛍ちゃんも飲んでる!」
「姉の私に隠れて…ぐぬぬ…許さんぞ…ってならんわっ!」
「ちなみにその蛍ちゃん…僕のも飲んでる!」
「おぃぃいいいいい下ネタはダメ、ゼッタイ」
「―――――って芦田が」
「殺す」
「そんなときこそ?」
「水素配合ソーダ水だねっ!ってならんわっ!」
「でもジャパンでは一億三千万人これ飲んで亡くなったらしいぜ…」
「全員かいっ!」
「驚きだよな、ジョン」
「ジョン私かいっ!まぁ確かに驚いたよ日本中が飲んだという事実と殺傷率100%の清涼飲料を売ろうとしてる君にね!」
「ソーダで淘汰」
「上手くないよっ?!不謹慎だよっ?!」
「サンクス」
「感謝されることしてないし!」
「君のお陰で目が覚めたよ。素直にコカコーラを買おう」
「最初からそうしてぇぇぇぇえええええ―――――っ!」
自販機に二本分の硬貨を入れてボタンを押す。ぽちっ。
「で、妹さんには何買うか決めたの?」
「下着にしようかなハァハァハァ」
「おまわりさぁああああああああああああああああああああああああああああんっ!」
「おいぃぃ?!叫ぶな!」
「たっくんがキモいから」
「ぐさっと来たわ!」
「………で。妹さんには何買うか決めたの?」
「下着、君に決めた!」
「おまわりさぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――んっ!」
「分かった分かった!本当すみませんした!」
「…キモ」
「そんな白い目で見られるの初めてだわ!出来れば見たくなかったわ!」
「あ、たっくん!酸素だよっ」
「だから雑なんだよ話の逸らし方が!お前は松原飛鳥か!」
「どうでもいいけど、コーラ溢れてまっせ」
「先に言えぇえええええええ!ビショビショだよ!」
「ウェットだね」
「うん、何でルー大柴っぽく言い直した?!」
「今日がクリスマスイヴだからです!」
「意味が分かんないからね!」
「ボケに意味を求めちゃダメ、ゼッタイ」
「腹立つわ!」
「いいじゃない、人間だもの」
「みつおネタ引っ張り過ぎだろ!」
「Pixivに投稿してからだから四年近く引っ張ってる」
「メタな発言やめようね?!」
「いやぁ、しかしグイン・サーガよりも巻数、多いですね」
「不可能!」
「いやぁ、しかし聖書より発行部数、多いですね」
「不可能!」
「いやぁ、しかし『キセキ』よりダウンロード数、多いですね」
「不可能!」
「いやぁ、しかし良い天気ですね」
「大雪!」
「いいじゃありませんか、雪。晴れだけが良いわけではありません」
「あっそう!」
「いやぁ、しかし私たち痛い目で見られてますね」
「早く言えぇえええええええええ―――――!」
大声で言い合っていたらしく周り客が白い目で見ていた。
「たっくんそんなんだからモテないんだゾ☆」
「古い!部長古い!」
「時代は繰り返すの」
「ん。確かに一理ある――――――」
「モンハン7もまた流行るよっ!」
「そうだね!…いやいやいや時流れ過ぎだから!むしろ次の世代だから!」
「文句ある?」
「あるね、残念ながら!」
「サザエさんとかの逆パターンと思えば」
「違くね!?それだとずっと同じ時に留まっているのに歳は喰っていくという最早人類の究極の選択になるよ!?」
「どうでもいいけど一昨日の洗濯物にタオルなかったよ」
「本っ当どうでもいいな!」
「たっくんくらいね」
「うん、泣くよ?!」
「今日の私はツンなのだー」
「知らんがな!」
「……………ごめん、聞いてなかった」
「泣くよ?!」
「いいじゃない、人間だもの」
「さっき聞いたよ?!」
「幻聴を?」
「違うと思うな!」
「で、妹さんにはどのやつ買ってくの?」
「何ランジェリーショップに誘導してるんだ――――!」
「バレたか」
「バレるわそんなぐいぐい押されたら!女子トイレに友達を無理やり押しこむ男子小学生か!」
「実物見てアマゾンで注文するっていう手もあるよっ」
「あ、そっかその手があったかー…だから何で買う方向なの?!」
「えっ買わないの…?」
「ビックリしてんじゃねぇえええええええええええええええ!」
「ビックリスマス…。くすっ」
「つまんねっ!座布団没収レベル!」
「脳が若返るのになぁ、おやじギャグ」
「お前高校生だから!若返る余地ないから!」
「…いやだから更に若返る。二十歳くらい」
「生まれてねぇ!」
「じゃあ二分くらい」
「誤差の範囲内!」
肩で息をしたら疲れたので、コーラを飲もうとペットボトルの飲み口に口を当てる。
「見事に空っぽだったね!」
「私が飲んだ」
「間接キスだーわーい」
「もっと嬉しそうにしろゴラ」
「うん」
「何で今一瞬胸見た?ねえ?」
「いや…ね」
「その哀れむ目はすごくやだわ!」
無難なマグカップを手に取り、会計を済ませる。
それを見て恵がぽつりと言う。
「今までのやり取りはなんだったの…」
「雑談」
「バッサリだねっ!」
百貨店をあとにする。
辺りはもう既に大分暗くなっていた。
駅で別れて、ホームを歩く。