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第七話

「……いい年して何やってんだか」


明日腰やっても知らないわよ、ツェリさんがあきれ果てたように呟く。

そう言いながらそうなったら看病するんだろうなあ、たぶん。

僕達が見ているのは追いかけっこ(?)中のジナムさんとゲイルさん。

ジナムさんはクールな人だ、あんなに感情を顕わにするのは珍しい。

逃走中のゲイルさんには悪いが、新たな一面に少し嬉しくなった。


「……改めて思うんだけど、

 リヒトとジナムって良いコンビよね。

 嗜好合う上に戦闘スタイルも相性抜群なんだし」

「名コンビのツェリさんにそう言って頂けて嬉しいです」

「め、名コンビ……ね。ふ、ふーん……」


室内で暴れていたからだろう。

マスターに怒られ、ジナムさん達は外に追い出されていた。

二人が出て行った扉を見つめてツェリさんが言う。

てっきりゲイルさんを心配して見つめていたと思っていたのだが、

ジナムさんの戦い方を観察していたらしい。

あと僕の言った事実に何だか照れているようだった。


「嫌なら無理には聞かないけど……

 リヒトはどうやってジナムと仲良くなったの?」

「……それは」


なれそめか。なんだか照れくさいけれど、悪い気分じゃない。

彼女に語りながら思い出してみる。


ジナムさんがこのギルドにやってきたのは一年前。

入門試験での数少ない合格者だった。

それまで剣一筋だったという彼は魔法に滅法弱かった。

だからギルドに慣れ始めており、かつ彼の弱点を補える僕がコンビとして宛がわれる事に。


「この時、魔術師になって良かったと心から思いました」

「何で?」

「……実はずっとファンだったんです、僕」

「は?誰の?」

「……ジナムさんの」


こちらの世界に飛んできた時、僕はしばらく闘技場で生活費を稼いでいた。

僕が出るのは魔法部門。剣闘技を観たのは興味本位。

売れ残っていた一番安価な試合だから全く期待してなくて。


でも気付けば僕はその試合に夢中になっていた。

正確には闘うジナムさんの姿に。

熱い彼の生き様を感じるあの剣捌き。

僕が一生かけても辿り着けない、その姿にひどく憧れた。


「……ジナムって剣に関しては物凄く強いわよね。

 じゃあなんで人気無かったの?その頃はダメだったとか?」


はっきり否定する。当時から彼の剣の腕は高みにいた。

僕の反応にツェリさんが首を傾げる。それは僕も疑問に思った。

だから僕も闘技場の支配人に聞いてみたのである。

原因はずばり彼の女嫌いだった。


「人気があるのって女剣士の試合らしいんです。

 でも当時のジナムさんは同性としかできなかったんで……。

 今でこそ魔物なら女形でも相手できるんですけどね」

「ああそういう事。闘技場に来るのって殆ど男よね。

 ……女選手って大概いやらしい格好だから、それ目当ての」


最低、とボソっと呟いたツェリさん。

せっかくの可愛い顔をこれでもかと言わんばかりに歪ませている。

彼女がここまで嫌悪する理由は……たぶんゲイルさんが噛んでいるんだろうな。

聞いた所で流されるし、彼女の機嫌を損ねるだけだ。だから僕も敢えてのスルーを。


「だからこっそり支配人経由でファンレター渡してもらってたんです。

 男からそんな物貰っても困るでしょうし、

 女からでもそれはそれで嫌かと思ったんで、無記名で」


しばらくして僕はマスターからスカウトされ、ハルモニアへ移った。

それからも時折、彼の試合を見に行ってはファンレターを送って。

彼がそこそこ人気になった頃だった、剣闘士を辞めたと聞いたのは。

もう彼の剣技が見られないのかと肩を落としながら日々を送っていたのなら。


「……ジナムがハルモニア入ってきたと、しかもコンビになっちゃったと」

「はい。それからジナムさん、僕が魔術闘士だって覚えててくれたんですよ!

 活躍してたのは短い間でしたし、一回も会った事なかったのに。

 おかげで話が弾むうち、他にも趣味とか似ているのがわかって……」


彼の告白により、今に至る。

そうなるなんて僕は全く予想していなかった。


「あ、僕がファンだったのは秘密にしてもらえますか?

 ジナムさんに知られるのはなんだか恥ずかしいので……」

「……また秘密が増えたわね、別に良いけど」

「ふふ、そうですね。ありがとうございます」


会話に一段落付いた所でドアが開く音。

てっきりジナムさん達が帰ってきたのだと。

だが立っていたのは僕らと同じような外套を纏った男性一人。


「ねえマスターいるー?」

「奥で仕事してるわよ」

「ありがとー」


ツェリさんの言葉にふにゃりと笑った彼は異邦審官のハイドさん。

問題を起こした異界人を取り締まる役職に付いている。

外部機関だがハルモニアにもたまに協力を仰いだりしているから、

今回もその件でやってきたのだろう。

まっすぐマスターの所に向かうのかと思いきや、

僕の方を見て、不思議そうに尋ねてきた。


「リヒト、いつの間に帰ったの?」

「え?ずっとここにいましたが……」

「あれ?じゃあ僕の見間違い?ごめんねー」


対して気にした様子も無く去っていくハイドさん。

何てこと無い勘違い。それなのに酷く胸騒ぎがした。

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