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第二十三話

「……え?」


僕が潰れる音も痛みも起こらない、代わりに聞こえたのは鮮やかな剣戟。

それは続けて僕の手足に向けられる。たった二度、でも即座に僕の拘束が取れた。

瞼を開く、土人形だったはずのものは砂として地へ広がっていた。

上向けば掌が差し出されている。この大きな手、は。


「無事か、リヒト」

「ジナムさん……どうして……?」

「わからん」


ぐいと僕の手を握り立ち上がらせる。

簡潔な答え、触れた手の熱、嘘じゃない、夢じゃない、どうして。

まだ狼狽えている僕とは逆にジナムさんは既に剣を構えていた。


「……リヒト、例の女はどこにいるんだ」


隠れているのか?と尋ねる彼の顔は冗談を言ってるようには見えない。

でも女は目の前にいる。それにジナムさんの視線はやけに下の方を見ている。

僕が理解できずにいたのと同じように、女も突然の事に頭が追いついていなかったらしい。


「何よそいつ、いつの間に作ってたのよ。二番目。

 にしても外見といい魔力といい、お粗末なできね。アンタと同じで花がないわ。

 それに騎士とか……まあ馬鹿で夢見がちなアンタにはピッタリだけど。

 こんなので私になったつもり?あっりえない!

 っていうか、アンタそんな名前使ってたの?

 まあ、あの男によく似て愚図のアンタには相応かしら」


どうやら女はジナムさんを人間と思わず、

あいつの土人形のような使い魔だと思っているらしい。

それもそうだ。この結界は僕と女以外、入れる訳がないのだから。


我に返った女がぺらぺら罵詈雑言を並べる。

さっきまでの呆けた顔を晒していたのに今や舐めきった態度。

色々言いたい事はあったが、大切な人達を馬鹿にされ、僕は激しく怒りを覚えていた。

懐から取り出した魔石をぐっと構える。


「なんだこのやかましい老婆は」


ぶち抜こうと振りかぶった所で彼が怪訝そうに言った。

周りを見渡しても老婆なんていない、この場に居るのは僕と同じ顔の女のみ。

そして僕とジナムさんの視線は同じ方を向いている。

僕らの目に映っているのはさっきの余裕が嘘のように青ざめた女だけ。


「な、なんで……何で!何で何で何で!」

「お前が言ってる事はさっきから意味が分からん、具体的に言え」


滑稽なほど取り乱す女に対し、ジナムさんは冷静につとめる。

ジナムさんには女が老婆に見えていて、それがおそらく本当の姿。

指摘に取り繕うことなく、ただ慌てふためいているのだから。

今起きている出来事を整理して、ある結論に辿り着く。


「僕が逃げて、すぐ追いかけられた訳じゃないんですね」


ねえさま。女に向かってそう呼びかけた僕にジナムさんが困惑していた。

姉妹にしては年齢差がありすぎる。その反応は何も知らなければ普通だろう。

戸惑わせるのは得策じゃない。うまく纏められる自信は無いが説明しなければ。


「この人は僕が逃げた時代より遙か未来にいる姉です。

 ジナムさんには効いてませんが魔法で僕と同じ年に化けている。

 老いた自分を見るのも見られるのも嫌だから。

 僕を迎えに来たのは……体を奪って成り代わろうとしたんですよね」


女が歯を食いしばる。侮っていた僕に思惑を当てられ悔しいのだろう。

姉は自分の容姿を何よりも自慢にしていた。

だから仮にも同じ顔を持つ僕が最も優れた代用品となる。

それに精神を交換する魔法は血縁者の方が成功しやすい。

戦う道を選んで本当に良かったと思う、この女にされる位なら死んだ方がマシだ。


「……そうよ、だってそれこそがアンタの役目なんだから!

 けどやっぱり必要無いわ、そんな見窄らしい体はいらない。

 魔力だけでいい、それだけでも充分若返るもの!」

「くだらん」

「……今、なんて言ったの」

「くだらんと言った」


熱弁をジナムさんは一蹴した。

女の眼光は恐ろしく鋭い、けどジナムさんの目の方がもっと厳しい。

腕を組んだ彼が女を見下す。そして明かな軽蔑を乗せ息を吐いた。

後ろの僕ですら感じるのだから目前の女はどれほどの威圧感を覚えているのか。


「そんなくだらんことにリヒトを巻き込むな。

 第一、夢見がちなのは貴様の方だろう。

 老いを受け入れず、外身ばかりに気を取られ、浅ましく美に執着する。

 ……そんな貴様は何よりも醜い」

「ッうるさい、うるさいうるさいうるさい!!黙れ!!」


響き渡る金切り声。合わせて再び甦った土人形達。

全て歪な不完全体だが数は同じ。どこにこんな魔力が残っていたのか。

魔石の数は心許なく、魔力だって万全ではない。

でも絶望的な気分にはならなかった。


「戦えるか」

「はい!」


互い背中を預け合う、僕の返事は熱気を帯びていた。

雄叫びをあげた化け物は群れを成し、僕らに勇み寄ってくる。

ジナムさんを狙う数が多い点からして、魔力より怒りで操っている状態のようだ。

僕へのマークは薄い。そう確信した所で「行くぞ」と一命が下る、僕らは同時に走り出した。

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