第十七話
「えっと……結局、修羅場じゃなかったって事で……いいの、よね?」
「だからさっきからそう言ってるだろう」
ジナムさんとツェリさんの説得により逃亡を止めた僕は、
これからの事を話そうとしたのだけれど。
マスターに呼び出され、ロビーに集まっていた。
話を聞くにどうも一部始終を見ていた黒騎士さんの差し金らしい。
①最近僕と仲の良いツェリさんが、僕と恋仲のジナムさんを呼び出した。
②後を付けた所、二人揃って僕の部屋へ。
③心配で部屋の前でうろうろしてたら、ジナムさんの怒声が聞こえてきた。
この三点からツェリさんとジナムさんが僕を奪い合って喧嘩してると思ったんだとか。
事情を説明したものの、まだ疑いの色を見せるマスターに対応するジナムさん。
ツェリさんは「馬鹿げてるわ」と頭を掲げている。僕もそう思う。
やっと説得が終わったのか、明るい表情でマスターがこちらに向いた。
「色恋沙汰の修羅場って面倒だから、とにかく誤解で良かったわ」
「普通にわかるでしょ。そりゃあの時は大変だったけど」
死んだ目でツェリさんが言う。
どうも僕達が入る前に一悶着あったようだ。
下手に触れない方が良いだろう。お疲れ様ですとそっと心の中で唱えておいた。
「あ、マスター」
「ん?どうしたの、リヒト」
仕事へ戻ろうとしたマスターを引き止める。
黒騎士さんの気遣いは結果的に良かったのかもしれない。
早いうちに相談しておきたかったから。
「元居た世界から追っ手が来ていて……
その件でお力を貸していただきたいんです」
「……それってリヒトの偽物よね。いいわよ」
詳細を話す前にあっさり承諾された。
というかマスターは何故か先に情報を得ているみたい。
あの女について話した覚えは無いのに、どうして。
僕の表情からそれを読み取ったのか、マスターが説明してくれる。
「アンタのそっくりさん、ちょっと噂になってたの。
その確認をツェリとゲイルがしてたのよね。
で、ゲイルから報告受けてたの、アンタ達が修羅場ってる間に」
「だから違うと言ってるだろう……」
何回修正させるんだと疲れた声でジナムさんが言う。
彼の律儀な性格はこんな所で弊害が起こるのか。
そんな下らない事を真面目に考えてしまった。
「じゃあ予想以上に色々問題起こしてたから、
アタシとしてもシメておきたいのよね。
治安維持もギルドの役目の一環だもの」
「……そうだったんですね」
……既に問題を起こしていたのか、内容は大体想像が付く。
僕がここにいたから出た被害。それに胸を痛めていたらジナムさんが肩を抱いてくれた。
そのぬくもりに勇気付けられる。今は気弱になってる場合じゃないのだ。
これ以上の悪行を食い止める為にも、一刻も早くあの女と立ち向かわなければ。
二人がどのような理由で噂を確認してくれたのかはわからない。
だがこの二人で本当に助かった。じゃなきゃ噂も被害も広がり大騒ぎになっていたはず。
ツェリさんの方へ顔を向け感謝を述べる。あとでゲイルさんにも言っておかないと。
「それからハイドにも報告行ったおかげで、
例の女、異邦審議協会から指名手配されたのよ。
がっぽり賞金かかってんの、となれば尚更やるしかないでしょ?」
むしろそれが本題じゃないですか?とは聞けなかった。
瞳にGマークを浮かべるマスター、とことん黒い笑みだった。
僕の不安は杞憂だったらしい。これならハルモニア総出で協力してくれる。
さすがにお尋ね者潰しに定評のあるギルド。頼もしいけど少し怖い。
「あ、だいたい落ち着くまでリヒトは依頼受けたり外出しちゃダメよ。
他の賞金稼ぎに例の女と間違えられたら危ないし。
その間はノルマは課さないから」
「わかりました、よろしくお願いします」
待ってなさい300万G!!と気合いに満ちた叫びを上げる彼。
これはマスターも直々に動くんだろうな。とぼんやり思う。
ツェリさんやジナムさんはそんなマスターの姿を呆れたように見ていた。