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第十三話

(勘違いじゃない)


大好物のオムレツを口にしているにも関わらず、私の機嫌は傾いていた。

原因はリヒト。彼女が最近よそよそしいのだ。

倒れたと聞いて診断に向かった時からなんかおかしいとは思ったのだけれど。

表情が暗い。心配しても何でもないとはぐらかされる。

しかも明らかに避けられてる。今日もご飯に誘ったら断られた。ここの所毎日。

でもそれは私だけじゃ無いようだ。ジナムにも何だか一線引いてる。

理由が分からない私は苛々して、つい皿をぐっちゃぐちゃにスプーンでかき混ぜていた。


「……ツェリ、どうしてそうカリカリしてんのよアンタ」

「別に。それで何の用?マスター」


背後から話しかけられたが私は振り向かない。

しかも声色を変えられないまま返答した。

八つ当たりな態度だったが、彼は溜息をつくもさほど気にしてなかったらしい。

もくもくと私はオムレツを口に運び続ける。


「アンタに聞きたい事があるのよ」

「何?」

「リヒトって女じゃないわよね?」


突如かけられたマスターの疑惑。動揺から気管へ卵が入った。

げほげほ咳き込む私の背をマスターが撫でる。

労られているにも関わらず、私はマスターを睨み付けた。


「急に変な事言わないでよ!」

「食事中に悪かったわ。

 でもそんなにびっくりしないでよ」


びっくりだってするわよ!ただでさえ隠し事苦手なんだから!

水を飲んで落ち着きを取り戻す。まだ心臓がバクバクうるさい。

内心を悟られないよう、いつもより虚勢を張って臨んでみる。


「なんで私に聞くのよ。ジナムに聞きなさいよ」

「ここの所、仲良いのはアンタじゃない。

 だからてっきり何かあったのかと思って。

 ほら心を近づけるのは共有が一番だって言うしね」


……マスター、本当はわかってるんじゃない?

今すぐこの場から逃げ出したいが、それは肯定にも等しい。

一応まだ疑惑みたいだし……何より友達を見捨てる真似はしたくない。

どうにか切り抜いてみせよう。


「で?理由は?」

「最近、リヒトそっくりの女の子を見たってよく聞くのよ」

「もしかしたら単なる女装癖かもしれないじゃない」

「アンタ……普通、真っ先にそこ疑う?

 いや最終的にアタシも思ったから人の事言えないけど。

 趣味は人の勝手、それだけなら口出ししないわ。

 ただね、目撃場所が……」



◆◆◆◆◆◆



「おっさん、享楽街付いてきて」

「……昼間っからお誘い?随分大胆だねえ、ツェリ」

「何考えてんのよ!んな訳ないでしょうが!!」


顔を真っ赤にさせて怒鳴るツェリ。

もちろん気のせいなのだが、ぶわっと膨らんだ猫の尻尾が見える。

音を付けるならシャー!という威嚇がぴったりだ。


唐突な申し出はいつもの事だが内容は動揺を誘うものだった。

軽い冗談でごまかしたが……まあこの怒りようなら大丈夫だろう。

宥めながら落ち着くのを待つ。しばらくして視線を逸らしながらツェリが説明を。


「リヒトにそっくりの女の子がそこでたむろしてるって。

 あそこって悪い噂しかないじゃない。

 だからマスターが心配してて」


享楽街とは名の通り、いかがわしい店の集合地帯である。

あんな所、女一人で出歩こうなんて自殺行為に等しい。

ましてやツェリのような愛らしい子となれば、危ない店に連れ込まれる事は必然的。

いくら強いたって力技で来られたら……あーあー考えたくない。


「けど確かめない事にはどうにもできないでしょ、だから」

「おっさんに保護者を頼みたいって事ね。

 おっけーおっけー任せちゃってー」


リヒトに嫌われた、とここの所ツェリは悩んでいた。

おっさんにもいつも通りツンツン、若干しょんぼりしながら相談してきていたし。

今、彼女の大半を占めているのはリヒトなんだろう。

妬けないって言ったら嘘になるけど。それ以上に彼女が可愛くてしかたない。


「……なんでニヤニヤしてんのよ」

「ツェリは友達思いの良い子だよねー、偉い偉い」


頭をぐしゃぐしゃと撫でたなら、ぷいっと顔を逸らされた。

ツェリの性格からして子供扱いかと嫌がられそうなものだが、

案外こうされるのは好きらしい。なので何かと理由を付けては撫でている。

その度ぶちぶち言われるか、今のよう黙りこまれるか。

よっぽど機嫌が悪くなければそうそう抵抗されることは無い。


治安が良いとは世辞でも言えない場所だ。

できる事なら俺が代わりに確かめてやりたいがツェリは納得しないだろう。

愛情に餓えていた彼女は一度懐に入った人間には非常に甘い、自分も体験者だからよく知ってる。

マスターの言ってる事も事実だろうが、ツェリ自身もリヒトが心配で仕方無いのだろう。

だから何かしら自分で行動しないと気がすまない。

それは彼女の長所であり、欠点でもあり。俺にとっては惚れた要因だ。


「じゃあいっちょエスコートしちゃおうかねえ」

「……ありがと」

「どういたしまして」


享楽街が動き始めるのは夜。

それを待って、俺達は動くことにした。

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