3話
その日を境に田中の執拗なイビリが始まった。
ちょっとミスをしようものなら、重箱を突くように叱責される。
それも、ネチネチと長い。
はっきり言って、パワハラだ。
課長は見てみぬ振りで、同僚は知らん顔。
さしもの私も疲労の色が濃くなり、食事が喉を通らない日が増えていた。
いつの間にかスカートが落ちそうなほどやつれていたらしい。
私を叱責する様子は待合から丸見えだ。
おばあちゃんと仲の良かった近所の人も多く利用している。
あまりのえげつなさに店長へ苦情をいれてくれたらしいので、一旦はイビリが落ち着いたものの、ほとぼりが冷める頃には執拗さを増して再開した。
私はこいつに振られて結婚しなかったことを心から誇りに思う。
むしろ、振ってくれてよかった。ありがとう。感謝する。
「っ、聞いてるのか!」
もう、答えるのも面倒だ。さっさと終わりにしてくれ。
「そんなんだから、未だに結婚できないんだよ!」
いや、それ、関係ないし。しかし、よくそんなんで出世したな。
出世したから言いたい放題か?ま、どうでもいいや。
早く満足しないかなー。
「相変わらず使えねえな、上も下も」
急に小さい声になったと思ったら、なんちゅー下らないセリフを吐きやがる。
あまりの寒さにトリハダ立ったぞ。
もういい、堅実な生活さようなら。無職の生活こんにちは。
「あなたが思ってるように私には祖母の遺産がありますが、微々たる物なので生活のためには働く必要があります。それが何か?」
「はぁ?」
「ざっと1千万ほどここで運用していましたが、そんな微々たる資産じゃ使えませんね。お詫びに退職して資金も引き上げます。今から伝票を切りますから、ちゃっちゃと決済してください。それから今から有給休暇を消化させて頂きますのであしからず。それでは皆さん今日までお世話になりました。有難うございます。貴行の益々のご発展をご祈念申し上げます。」
それだけ一気に捲くし立てると、自席に戻って伝票を切り、休暇届けを提出した。
もちろん田中をすっ飛ばして、課長へ。
これを承諾いただけないなら、資産を全額引き上げますけど-との脅しつきで。
実は、生前、ビルを所有していたおばあちゃんの資産は、ゼロが二つ多い。
おばあちゃんが亡くなった後、それを引き継いだ私のところには頭取直々挨拶に来た。
働きにくくなるのでこのことは黙っているように頼んでいたが、課長の顔を見た限り資産の件を知っていると踏んだ。
しかも、役職を色々引き受けていたおばあちゃんのおかげで、結構顔が利く。
あることないこと言うつもりはないが、私が辞める理由が田中だと知れば、田中個人はは営業しにくくなるだろう。同期のなかではエース級だが、ここで出世はジ・エンドだ。
・・・さぁ、どうする?
課長の頭の中でソロバンを弾いている音がやみ、目で「了解」と伝えてきた。
あとの処理は全て君に任せたよ、課長君。
私は、晴れて無職の身になった。




