12話
カフェの仕事は順調に行き、半年が過ぎた。
一日中立ちっぱなしなのは疲れるが、好きな料理で食べているのだ。文句はない。
常連と言える客も増え、ハナと顔なじみになった客もいる。
ときどき食事に誘われるが、社交辞令と思って愛想よく受け流す。
今日も、そうだ。
「ねー、ハナちゃん。今度食事いこうよ。」
「あはは。ありがとうございます。機会があればご一緒したいですねー。」
「だからさー、その機会を作りたいの。」
「小林さんお仕事お忙しいのに機会をどうやって作るんですか?」
「ハナちゃんと食事行けるなら時間はいくらでも作るよ。」
「私との時間を作るくらいならお仕事に励んでくださいよ。」
「・・・ハナちゃん、ツレナイ。」
「そんなことないですよー。いつも来ていただいて感謝しています。」
自分は正直に答えているだけなのに、ツレないとか、天然とか言われるのが解せない。
小林が残念そうな様子で帰っていくのをモヤモヤしながら見送った。
「ハナさん。わざとやってる?」
「はい?」
「あしらいがうまいから。」
「なんの?」
「ナンパの。」
どこが、なにがナンパ?しかもわざとって何よ?
それが顔に出たのか、オーナーも言い募る。
「いや、ハナちゃんのこれは天然だね。」
「天然ですかねー。」翔君が答える。
「いや、だって、どこがナンパなんですか?食事に誘われましたけど、社交辞令なんじゃないですか、あれって。・・・・違うの?」
なんともいえない二人の微妙な表情を見ていると、自分の受け取り方が間違っているようで不安になってきた。
「これは、なかなか手強いよ。翔。」
「オーナーも苦労しますね。」
もう、何の話だ。
「ああそうだ。ハナさん。また姉さんが家でなんか作ってくれって。」
「いつでもよろこんで。」
「じゃぁ、姉さんに伝えておく。」
翔君のお姉さんにお礼の食事を振舞ったら、随分気に入ってもらえたらしい。
ホームパーティーが好きなようで、たまにケータリングを頼まれる。
カフェの仕事の合間をぬってやるので、睡眠時間が削られたりするが、
それでも喜んでもらえるので楽しくやっている。
・・・・ただし、人生いいときばかりとは限らない。