10話
お姉さんと別れた後カフェに寄り、買い物を済ませて自宅に戻った。
途中、どうもジロジロ見られているような気がして、いたたまれない気分でいっぱいだった。
うーん。ビフォーアフターくらい変身したけど、どうも慣れない。
メイクとかなんとか、これから自分でできるのか一抹の不安がある。
離れのほうの出入り口がガチャガチャなって、物思いから覚める。
ああ、健ちゃんが稽古をつけてる日だったっけ。
カーテンを開けて健ちゃんを確認した後、出入り口を開けた。
健ちゃんは口をあんぐり開けて、こっちを見ていた。
「・・・ねぇ。やっぱ似合わない?」
「えっ、やっ。そ、そんなこと、ななななないぞ!う、うん。大丈夫、きれいだ。」
「えー、なにどもってんの?」
「や、なんでもない!帰る!」
健ちゃんが顔を真っ赤にして慌てて帰っていくのを呆然と見送り、食材を冷蔵庫にしまった。
ま、あの健太郎が慌てるくらいの変身ぶりだったんだろう。シメシメ。
けたたましく家電が鳴る。
「はい、いの・・・」
「ハナ!」
「健ちゃん?」
「戸締りちゃんとしろ!いいな!?」
こっちが何か言う前に、ガチャギリ。なんなんだ、いったい。
今度は携帯が鳴る。次から次に。少しは落ち着かせて下さらないかしら?
「ハナちゃん?今話していい?」
「あ、おーなー。はい、大丈夫です。」
「ハナちゃん、ご飯食べた?」
「未だです。」
「じゃぁ、ちょっと出てこない?翔のお姉さんから随分変身したって聞いてさ。見てみたい。」
「いや、ちょっと!なんでそんな情報が!」
「うん?翔から聞いた。」
「ハナさーん。姉さんから写メ来たよー。すっごい、キレイになったじゃん!」
「翔君?」
「そのまんま、家で飯食うのつまんないでしょ?僕らとデートしようよー。」
「と、言うわけだから、今すぐ出てきなさい。待ってるから。」
「はぁ。」
半ば強引に約束させられ、そのまま街へ出た。
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一方、健太郎はその頃。
-------畜生。あれは、勘弁しろよ・・・。なんとかやり過ごしてきたのによ。
ハナの変貌振りには驚いたが、それ以上に危惧することがあった。
あいつは男慣れしていない。しかも妙に金もある。
あいつの人柄なんぞお構いなしで、群がる奴らも増えるだろう。
あいつがそれで泣かなきゃいいが・・・。
田中のように泣かせるような奴が出てきたら、殺せる自信あるな、俺。
そんな物騒な物思いに耽ってることは、ハナは知らずにいた。