早く彼に会いたくて
「今日は早く行こうっと」
私は家を後にすると、彼と落ち合う場所で足を止める。
太陽は静かに輝いており、それほど日光は強くなかった。
早く彼が来ないかなとそわそわしていると、彼の姿が遠くに見えてきた。
通り過ぎる人を無視し、手を振ると、彼が大股でやって来る。
「おはよう」
「おはよう!!」
私は笑顔を浮かべ、彼に一歩近づく。
上目遣いでじっと見ると、
「どうした?」
彼が不思議そうに聞いてくる。
「えっと、その、実は…」
私は言うか、言うまいか、もじもじし、彼を見つめる。
彼は苛つかずに、待ってくれる。
私は周りを確認すると、誰もいないことを知り、カバンを開ける。
「あのね、実は…」
「おう、何だ?」
期待させるような時間。
私はドキドキしながら、とあるものを取り出す。
「はい、これ!!」
「え? …封筒?」
私は白い封筒を取り出すと、ぺろりと舌を出す。
「実は通ったのよ!!」
「通ったって…まさかアイドルの?」
私は正解とばかりにうなずくと、彼に密着する。
彼以外に見て欲しくなかった。
肩と肩をぶつけながら、私は封筒を開ける。
「これなんだけど」
「どれどれ。…この度はオーディションに応募していただいてありがとうございます。書類審査が通りましたので、ご連絡させていただきます。…って、おい!!」
彼もようやく納得したようで、2人でハイタッチをする。
「すごい!! すごい!!」
「私もそう思う。だから1番に伝えたくて」
「そうか。ありがとうな」
急に抱きつかれて、びっくりしたが、今は気分が良いので、そのままにする。
彼に1番に喜んで欲しかったので、ほっと安堵の息を吐き出す。
「お前、よくやったな」
「えへへ。うん、ありがとうね」
彼から身体を離すと、私は少し暗い顔をする。
「どうした?」
「あの、次は歌とダンスの審査らしくて…。自信がないんだ」
「ちょっと待てよ」
彼が書類をさあっと眺め、確認する。
「確かにそうみたいだな。しかも日数があまりない」
「そうなのよ。どうすればいいと思う?」
彼は書類から顔を上げると、私の頭を撫でてくる。
「心配するな。歌はカラオケに行けばいいだろう? お前、あの人の歌、上手だし」
「ありがとう。問題はダンスよね」
私は頬に手を当てると、悩む仕草をする。
ダンスなんてしたことがなかった。
今から急に上手くなれるわけがない。
「ライバルに負けちゃうよ…」
ぼそりと呟くと、彼がデコピンしてくる。
「諦めるのは早い。とにかくMVを見て、アイドルのダンスをマスターしろ。俺も手伝うから」
「え? 手伝ってくれるの? だって、塾とバイトは…?」
「何とかなる。それよりも、お前が大事だ」
すごいことを言われた気がして、私は顔を赤らめる。
「いいの? 手伝ってもらって」
「おう。俺、体力は十分にあるから。とにかく一緒にダンスの練習をして…あとは、あ、そうか!!」
「何? 何?」
「体育の先生だよ。授業でどうせダンスをするんだから、相談して見ようぜ」
「体育の先生か…。嫌いなタイプじゃないけど、大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫。そこら辺は俺に任せておけ。あとは、そうだな、自主連だよな。Tic Tockでも見て練習するか?」
「なるほど。それならいいかもしれない」
私はアイドルのダンスの真似を少しすると、彼が嬉しそうに手を叩いてくる。
「そうそう。その調子。お前、センスあるよ」
「そうかな?」
褒められて、子どものように笑う。
彼は肩を抱いてくると、力を込めてくる。
「俺がいるから大丈夫だ。お前ならできる」
「うん。私もあなたがいるから、強くなれる」
正直に言うと、彼が離れてくる。
「とりあえずは、学校の授業を終わりにしないと」
「そうだね。勉強が悪くなったら、親に何て言われるか」
「おう。よし、行くぞ!!」
手を繋がれ、走り出す。
風が気持ち良く、「ああ、青春しているな」と心の中でわくわくする。
どうなるか分からないが、彼が手伝ってくれるなら一生懸命、頑張ろうと決意したのだった。




