表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

男は裏切るけれど、お金は裏切らない  ~愛されない王妃は静かに爪を研ぐ~

作者: 紡里
掲載日:2026/05/30

「側妃の実家が破産したというのは、どういうことだ?」

 国王が、わたくしの執務室に無遠慮に入ってきた。新聞を握りしめている。


「予算を超えた分の請求を、側妃殿下の実家に付けただけです。もしご不満なら、あなたの私財で肩代わりすればいいわ」

 わたくしはペンを置いたが、立ち上がって礼はしなかった。


「そんなことは……」

 ええ、あなたには責任を取るなんて発想はないでしょうね。予算の枠を考慮せず、強請られただけ応えた。王妃より豪勢な側妃だなんて、諸外国のいい笑いものだ。


「ああ、けれど『国王に代々引き継がれる財産』には手を付けないでくださいね。近いうちに息子が引き継ぐものですから」

 財務卿の父が、そんな横暴を許すはずがない。

 今までは、この男が二度と着ない衣服を、その手の筋に高額で売って補填をしていた。財務報告にちゃんと目を通していたら、気がついたはずだ。


「側妃を憎んでいたのか」

 うつむき加減で恨めしそうな上目遣いをすると、整った顔でも見苦しくなるものだ。他人事のように、そう思う。

「いいえ。がんぜない子どものような、あなたの機嫌を取ってくれたのです。その点では感謝……とは言いたくないですね。感情面においては、側妃の仕事をしていたと認めていますよ」

 王妃の補佐としては無能だけれど、それは有能な女官に割り振ることができた。

 だから、この先も今まで通りに暮らしていくことは可能なはずだった。


 けれど、息子が思春期に差し掛かかっている。側妃が彼の敏感な心を傷つけ、男女観を歪めるような発言をしたことは見過ごせない。

 許容できる範囲を逸脱したのは、彼女の方だ。


 わたくしたちを蔑ろにして、側妃のご機嫌を取っていた者たちは大慌てでしょうね。お金を貸していたら、小銭すら戻ってこないかもしれない。ふふふ、いい気味よ。


 財務卿の娘の私を、敵に回したことを思い知ればいい。

 愛されない王妃?

 上等ですわ。男は裏切るけれど、お金は裏切らない。

 ツケを請求するタイミングを測っている間、興奮したわ。わくわくしたの。次の日が楽しみだなんて、この男の婚約者になって以来初めてよ。


 実家の後ろ盾がなくなった側妃。贅沢をするだけで、役に立つことを証明してこなかった小娘。いえ、元小娘ね。今では「いい年」なんだもの。

 これからどんな扱いをされるか、楽しみだわ。わたくしは何も言わない。どれくらい、誰が、勝手に忖度するのかしら。


「あなたは、わたくしを『血も涙もない女』とおっしゃいましたね。今さら、何を驚くのです?」

 お前がわたくしに貼ったレッテルに、どれだけ苦労したことか。ならば、その通りになってやると腹をくくるのは当然の成り行きだ。

「あなたお得意の『愛』で、側妃殿下を支えて差し上げて?」

 今まで女に泣きつかれたら捨ててきた男が、彼女だけは特別に支えるのなら感心してあげるわ。本当に『愛』があったのね、と。



 数ヶ月後の夜会で、国王がわたくしをエスコートすると事前に連絡を寄越した。

 側妃が妊娠を機に増長したため、もう何年も夫のエスコートなど受けていない。今さら手を触れるのも気持ち悪い。手袋越しだって、体温は伝わってくる。


「ええ? お父様のエスコートで良かったのに」

 お母様には申し訳ないけれど、両親にはあんな男と結婚させた責任がある。

 それに、さすがにわたくしがいない場では、国王に関係した品物の売買交渉はやりにくい。父が独断で暴走していると誤解されたら困るのだ。


 侍女はわたくしの肩にケープをかけながら言った。

「側妃殿下が人前に出られる状態ではないのでしょう。仕方ありません。彼女の実家を潰した余波ですから、甘んじて受けてください」

 国王に蔑ろにされる王妃という立場は、本当に屈辱的だった。

 同じような境遇の過去の王妃を思い出し、「幽閉されていないだけ、ましよ」と自分に言い聞かせた。何度も、何度も。扇を握りしめて。


「ええー。 それでは、これからずっと……ということになるの?」

 実家から王宮についてきてくれた侍女は、ふっと笑った。

「何事もほどほどがよろしいのですよ。徹底的にやると、面倒くさいことが発生します。

 勉強になりましたね?」


「そういうのは、もっと早く言ってくれる? やった後に言うのではなくて」

 一緒に悔しがっていたはずの侍女は、わたくしの髪を梳きながらくすくす笑うだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
息子さん早く立派になって王位を継いであげてね…。虫以下の男にエスコートされる母親の不快感払拭のためにも! 継いだ途端に父親隠遁させるのは当然として、その後で母親に反旗翻して外憂呼び込まないようにしてな…
側妃の子供、、男女どちらかな?と気になりました。 どちらにしても 父親、母親どちらに似てもお花畑。やばっ。 反面教師に賢く 両親みたいにはならない。(๑•̀ㅁ•́๑)✧ タイプならともかく 周りから…
あれ、もしかして側妃にも子どもがいる?その子を使って暴走しないか心配。 王妃の息子は母親の合理的性格より父親の無責任系ダメンズの遺伝子が勝ったら、母の一族の傀儡にされそう。頑張れ王妃の遺伝子。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ