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真っ白な世界は、まだ遠い

 その朝、空はやけに澄んでいた。

雲一つない青に、少しだけ冷たい風が混じっている。


雪が輝く通学路の途中、久遠透は、高校の友達である真鍋遼と並んで歩いていた。すると、前方から何やら見覚えのある姿が見えた。白波陽葵。久遠透の小学校以来の幼馴染で、透と常に一緒に行動するような人だ。よく周りからは、『75%カップル』などと言われているほどだ。


 こちらに気づいたようで、一瞬だけ視線が合う。けれど、すぐに逸らされた。久遠透は、何も言わなかった。陽葵とも、真鍋とも、会話はなかった。


昨日の陽葵との些細な喧嘩以来、透と陽葵は口を利いていない。原因は取るに足らないはずだったのに、謝るきっかけを逃したまま、気まずさだけが残っていた。


3人は、同じ道を歩いているというのに、微妙な距離を保っていた。

透と真鍋が前を歩き、少し後ろを陽葵がついてくる。誰も、その距離を詰めようとはしない。


「…なぁ」


真鍋が、ふと思い出したように声を上げる。


「今日、8:30から学年集会あるって言ってなかったけ」


透は一瞬、目を見開き、それからため息をつく。


「やば、遅れる」


2人は顔を見合わせると、同時に走り出した。

背後で、足音が1つ増える。陽葵も思い出したのだろう。だが、彼らを追い抜くほどの勢いではない。ただ、離れない程度に走っている。


刻一刻と、遅刻までのタイムリミットが迫ってくる。吹き抜ける空気の冷たさが、喉を乾燥させる。

住宅街の中を縫うように、3人は駆けていく。曲がり角、ブロック塀、電柱。朝の静けさが、どこか不気味だった。


十字路を、1つ、2つとノンストップで駆けたところで────


透が、そのままの勢いで躊躇なく道路へと飛び出した。


「透!止まれ!」


真鍋が叫んだ時には、もう全てが遅かった。その時だけ、世界から音が消えたような気がした。


右から猛スピードで軽自動車が突っ込んでくる。

急ブレーキのタイヤ痕。短く、鈍い音。


真鍋は、その場で守りに入ることしかできなかった。体が言うことをきかなかった。


後ろにいた陽葵は、いつの間にか真鍋の隣にいて、反射的に手を伸ばしていた。


陽葵の手が、透の制服の裾を掠める。

それすらも、あと一歩届かなかった。


大きな衝撃音が、町中に響く。

透の身体が、宙に浮いた。時間はほんの一瞬のはずだったのに、異様に長く感じられた。


立ち尽くしていると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。複数の赤い光が、住宅街を染めていく。


透は、ストレッチャーに乗せられて、救急車に運ばれていった。顔は見えなかったが、制服は古着のようにボロボロだった。


車を運転していた人物は、その場で逮捕された。過失運転致死傷罪。そんな言葉が、誰かの口から聞こえた気がした。


元から大して面識のなかった真鍋と陽葵は、さっきまでの距離感を再び作り出しながら、学校へ向かった。ちなみに、かなりの遅刻だった。


9:10。授業はいつも通り始まった。授業中に寝る者、談笑する者、こっそり内職する者、ひたすらネリケシを作る者……その空間で行っていることは、人それぞれであった。


教科担当の先生が珍しく遅れて登場し、出席確認が始まる。はずだった。

中央に立つ先生の声が、この教室の状況を一変させた。





「  ──久遠透は、今朝亡くなりました   」






教室の音が、全て消える。さっきまでのガヤが、嘘のように。


陽葵は、ただ席に座ったまま、前を見つめていた。彼女は、一体何を考えているのだろうか。



真っ白な世界は、まだ遠い。


さてさてさて、初めまして!もみじです!

「小説家になろう」デビュー作はいかがでしたでしょうか?…と言っても、まだ一章なんですけどね。


主人公の久遠透は、17歳の高校生。本当に大人しい性格で、自己犠牲の精神がたまに行き過ぎるような人です。

陽葵から、たぶん何回か告白され…て、る…と…思います。ご想像にお任せしますよ、そこは。

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