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100日後、巨大隕石落下  作者: 橘靖竜
第三章 人類の賭け

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Day40 同じ瞬間を待つ世界


《アメリカ・ホワイトハウス》


窓の向こうには、

冬の終わりかけのワシントンD.C.の空。

大統領執務室のテーブルには、

二枚の原稿が並べられていた。


一枚目の冒頭には、

こう印字されている。


「本日、アストレアAは任務を果たし、

 オメガの軌道は地球から遠ざかりました。」


二枚目の冒頭は、こうだ。


「本日、アストレアAは任務を試みましたが、

 結果は、私たちが望んだものにはなりませんでした。」


ジョナサン・ルース大統領は、

無言で二枚を見比べた。


国家安全保障担当補佐官が

慎重に口を開く。


「Day36当日、

 IMPACT WINDOWの少し前に

 “世界に向けたメッセージ”を出す案もあります。」


「“成功を祈ろう”という意味もありますが、

 正直なところ、

 “最悪の場合のパニックを抑える”目的も。」


ルースは椅子にもたれ、

低く言った。


「どのみち、

 世界中がその瞬間を見ている。」


「成功でも失敗でも、

 “あの日あの時、どこで何をしていたか”を

 人は一生覚えているだろう。」


側近の一人が、

タブレットの画面を示す。


そこには各局の特番タイトルと、

視聴者予測ログが並んでいた。


「“オメガXデー”関連の番組は、

 すでに“史上最大級の視聴が見込まれるイベント”と

 分析されています。」


「ワールドカップ決勝と

 月面着陸を足して二で割らないレベル、

 という評価も。」


ルースは短く鼻で笑う。


「人類が“滅びるかもしれない日”を、

 スポーツイベントみたいに数えるのか。」


「……いや、

 そうでもしないと

 怖くて見ていられないんだろう。」


彼は、

二枚の原稿の間に

ペンを置いた。


「どちらの原稿も、

 最後の一文だけは

 まだ書くな。」


補佐官が目を上げる。


「最後の一文、ですか。」


「ああ。」


ルースは

窓の外の空を見た。


「成功しても失敗しても、

 “その先も人は生き続ける”という

 一文にしなきゃならん。」


「それが言えないなら、

 大統領の席から降りた方がいい。」




《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンスチーム》


会議室のホワイトボードには、

大きく数字が書かれていた。


〈Day40 → Day36

 アストレアA:最終航法確認ウィーク〉

〈ツクヨミ:タンク圧力試験/誘導系統統合〉


「NASA/JPL・CNEOSから、

 最新のオメガ軌道解が入りました。」


若手エンジニアが、

スクリーンを切り替える。


「この四日間での変化は、

 ほぼ“誤差範囲内”です。」


「アストレアAは、

 予定通りDay36のIMPACT WINDOWを

 狙える位置にいます。」


画面上で、

青い線が地球軌道、

灰色の線がオメガ、

そして細い白線が

アストレアAの軌道として重なっている。


「ツクヨミ側の方は?」


白鳥レイナが尋ねる。


別の職員が、

タブレットをめくりながら答えた。


「推進剤タンク、

 本日の圧力試験を通過。」


「誘導系統と

 地上局とのリンクテストも

 Day39から順次開始予定です。」


「本体の組立完了予定はDay30前後。」


レイナは頷き、

ペンでメモを取る。


「アストレアAの結果が

 どう転んでもいいように、」


「ツクヨミは

 “いつでも出せる状態”まで

 持っていく。」


「“飛ばさないで済めば万々歳”を、

 本気で目指しましょう。」


一人の若手が

おそるおそる口を挟む。


「IMPACT WINDOWの同時中継で、

 アストレアAのデータや

 プラネタリーディフェンスの説明を

 JAXAからも出すよう

 官邸経由で依頼が来ています。」


「“ツクヨミの存在も

 そこで一緒に説明してほしい”と。」


会議室の空気が

少しだけ重くなった。


「つまり、

 “二本目の矢の存在”を

 全世界の前で公表する、

 ということですね。」


レイナは

少し考えてから言った。


「……逃げられないわね。」


「“失敗したらどうするんだ”と

 言われる前に、」


「“だからこそ二本目を作ってる”と

 こちらから言うしかない。」


彼女はホワイトボードの

“Day36”の文字の下に

小さく書き足した。


〈Xデーまで、あと4日〉



《東京都内・カフェ》


駅前のカフェ。

壁際のモニターには

ニュース番組が映っている。


<特集:Xデーまであと4日

 世界はどう迎えるか>


アナウンサーが

穏やかな口調で話す。


「Day36、

 “アストレアAがオメガにぶつかる瞬間”に向け、

 世界中で“Xデーの過ごし方”が

 語られています。」


「“家族と一緒にテレビを見る”という人もいれば、

 “あえて普段通り仕事をする”という人も。」


「一方で、“オメガXデーパーティー”と称した

 集まりも各地で予定されており、

 賛否を呼んでいます。」


窓側の席で、

大学生くらいの男女が

コーヒーを前に話している。


「なあ、Xデーどうする?」


「ゼミのメンバーで

 誰かの家に集まって見る案と、」


「“黎明教団の祈り配信を見ながら

 静かに過ごそう”って案と、」


「“いや一人でゲームしてる”って案と、

 見事に割れてるんだけど。」


女子の一人が

ストローを弄びながら言った。


「私、

 “あえてバイト行く”かも。」


「なんか、

 テレビの前でじっとしてると

 余計に怖くなりそうで。」


別の男子がスマホを見せる。


「ほら、

 ライブハウスとかでも

 “オメガXデー・オールナイト”

 やるとこ多い。」


「カウントダウンして、

 成功したらそのまま

 ライブで大騒ぎ、みたいな。」


「……失敗したら?」


女子の一人が

ぽつりと問う。


男子は

冗談めかした笑顔を作ろうとして、

途中でやめた。


「……そのときは、

 多分ネットも何も

 それどころじゃないだろ。」


「だからまあ、

 “成功前提イベント”ってやつだな。」


カウンターの中で

コーヒーを淹れていた店長が、

彼らの会話を

聞いてしまっていた。


(うちの店も、

 “Xデー限定ドリンク”とか

 やるべきなんだろうか。)


(でも、

 そこまでやったら

 何かを間違えてる気もする。)


レジ横には、

さりげなく貼られた紙がある。


〈Day36(Xデー)も通常営業予定です。

 ※状況により閉店時間を早める場合があります〉


細い文字で書かれた一行。

それを見て

安心する客もいれば、

逆に不安になる客もいた。




《新聞社・社会部》


デスクの上には、

“Xデー”に関する世論調査の結果が

グラフになって並んでいる。


〈Day36の過ごし方(複数回答)〉

・家でテレビ中継を見る 42%

・仕事/学校など通常通り 37%

・意識的にニュースを見ない 11%

・祈り/宗教的な集まりに参加 4%

・イベント/パーティーに参加 3%


桐生誠は、

プリントを眺めながらつぶやいた。


「……“見ない”って人も、

 本当に“見ないで済む”のかな。」


若手記者が

隣の席から顔を出す。


「どこにいても、

 誰かがスマホで

 “今だ!”って見せてきそうですよね。」


「電車の中でも、

 コンビニのモニターでも。」


編集長が

コーヒーを片手に近づいてきた。


「桐生、

 Day36までのカウントダウン企画、

 そろそろまとめろ。」


「“Xデーまであと4日”って

 見出しでいく。」


「“世界が同じ瞬間を待つ”って

 切り口で書け。」


桐生は

画面に新しいタイトルを打ち込んだ。


『Xデーまであと4日――

 世界はどこで、その瞬間を見るのか』


(オメガ落下予定日まで、

 まだ40日あるのに。)


(人々の意識は、

 まず“Day36”に吸い寄せられている。)


(“そこで終わる”と思いたいからだろうか。)


彼は

窓の外の夜空を見た。


(本当は、

 Xデーの“成功”の方が

 怖いのかもしれない。)


(“うまくいったからもう大丈夫”と

 世界が安心して、

 その先の40日に

 目を向けなくなることが。)


モニターの隅には、

小さく数字が表示されていた。


〈オメガまで、あと40日。

 XデーのDay36まで、あと4日。〉


桐生は画面を閉じ、

キーボードに指を置いた。


(俺は、

 “成功して終わり”の物語じゃなく、)


(“その先も続く”物語を

 書かなきゃいけない。)


Day40。

世界は、

4日後の一瞬と

40日後の衝突を

同時に抱えたまま、

いつも通りと特別を

行ったり来たりしていた。



本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。

This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.


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