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100日後、巨大隕石落下  作者: 橘靖竜
第三章 人類の賭け

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Day47 信じる理由、疑う理由

《朝・通勤電車内》


満員の車内。

つり革の列のあちこちで、

同じ新聞社のニュースアプリが開かれていた。


『連載:オメガ100日間の真実①

 ――“揺れる数字”とプラネタリーディフェンス』


拡大された図には、

Day100~Day95あたりの

「衝突確率のグラフ」が描かれている。


「ほら、やっぱ一回“3%”まで

 上がってたんじゃん。」


スーツ姿の男性が、

隣の同僚に画面を見せた。


「でもさ、記事読むと

 “観測が少ないときは数字が揺れる”って

 ちゃんと書いてあるぞ。」


同僚は

少し眉をひそめる。


「分かるけどさ。

 “本当は3%のときもあったけど、

 1~2%で出しました”って

 後出しで言われるとさ。」


「“じゃあ今の70%って数字も

 どれくらい“調整”されてんの?”って

 考えちゃうだろ。」


近くの女子高生二人は、

Xのタイムラインを見ていた。


<“オメガ初期ログ”連載、読み応えあった>

<難しいけど、

 “宇宙開発ガチ勢”が

 どんなふうに悩みながら決めてるか分かって良かった>


「へぇ……」


片方の子が呟く。


「“専門家なんて信用できない派”と

 “ちゃんと説明してくれてありがとう派”で

 コメントめっちゃ割れてる。」


友だちが笑う。


「てか“アストレアちゃん、がんばえー”スタンプ

 まだ使ってる人いるんだ。」


「うん。

 “矢に罪はない”って書いてる人もいる。」


車内の空気は、

ほんの少しだけざわついていた。


“信じたい理由”と“疑いたい理由”が、

同じ画面の中で

交互にスクロールしていく。




《総理官邸・執務室》


サクラの前には、

朝刊各紙とタブレットが広げられていた。


どの一面にも、

アストレアAと

“初期ログ特集”の記事が並んでいる。


「……正直、

 もっと一方的に叩かれると思ってたわ。」


サクラがそう言うと、

中園広報官が

資料を開きながら頷いた。


「社会部の連載、

 かなり慎重に書かれていました。」


「“初期の数字の揺れ”を

 隠さずに出しつつ、

 同時にIAWNやSMPAGの仕組みも入れて、

 “誰がどう見張っているのか”を

 説明していましたから。」


藤原危機管理監が

別の数字を示す。


「こちら、

 今朝のオンライン世論調査の速報です。」


〈Q:オメガに関する政府・専門家の説明を

 “おおむね信頼しているか”〉


 信頼している …… 41%

 どちらとも言えない …… 38%

 信頼していない …… 21%


「“信頼していない”が

 思ったより伸びていません。」


「むしろ“どちらとも言えない”が

 かなり多い。」


サクラは、

少しだけ安堵の息を漏らした。


「“どちらとも言えない”人たちは、

 まだ話を聞こうとしてくれている。」


「一番怖いのは、

 “どうせ全部ウソでしょ”って

 完全に耳をふさぐ人たちだから。」


中園が、

タブレットの画面を切り替える。


「ただし……

 黎明教団のフォロワー数は

 ここ二日でさらに

 約5%増えています。」


〈“数字をいじる世界”に疲れた人たちへ

 ――私たちは、

 魂のまっすぐさだけを見つめます。〉


セラのそんな投稿が、

静かに拡散されていた。


サクラは、

ペンを軽く机に打ち付ける。


「数字をいじってるつもりは

 ないんだけどね。」


「でも“いじってるように見える”なら、

 それはこちらの説明不足だわ。」


藤原が問う。


「総理。

 “初期の確率の揺れ”について、

 官邸として

 コメントを出しますか?」


サクラは少し考え、

ゆっくり首を振った。


「今はまだ、

 科学チームに任せたい。」


「政治が先に出て行って

 “あれは隠蔽ではありません!”って

 言い訳みたいに叫ぶのは

 一番良くない。」


「私たちが口を開くときは、

 “数字”じゃなくて

 “それでも何をやるか”を

 語るときにしたい。」


中園はその言葉を

メモ帳に書きとめた。


(“数字ではなく、

 それでも何をやるか”。)


(このフレーズは

 どこかで使える。)




《NASA/JPL・CNEOS》


カリフォルニア・パサデナ。

観測データのモニター前で、

スタッフたちが集まっていた。


スクリーンには、

日本のニュースサイト英語版が映っている。


〈“JAXA and PDCO explain early Omega probability “shake””〉


若いオペレーターが

半分冗談めかして言う。


「世界中の人が、

 “あの3%”について

 語り始めましたね。」


「観測屋としては

 あの揺れ方、

 別に普通なんですけど。」


ベテラン研究者が

肩をすくめる。


「“普通”って言葉が

 一番危ないんだよ、こういう時。」


「自分たちには当たり前でも、

 一般の人にとっては

 “知らされなかった数日間”に

 見えるんだから。」


端末の向こう、

PDCOの会議室にいるアンナ・マクレインが

オンラインでつながっている。


「CNEOS側のログ監査、

 ありがとう。」


「記事のおかげで、

 “揺れる数字”の話を

 変な陰謀論に持っていかれずに済んだ部分もある。」


オペレーターが笑う。


「でも、

 こっちのSNSでは

 “3%の時点で映画なら

 もう世界中が大騒ぎだ”って

 突っ込まれてますよ。」


アンナも苦笑した。


「映画ならね。」


「現実では、

 その3%が

 “昨日は1%だった”かもしれないし、

 “明日は5%かもしれない”。」


「その揺れの中で、

 “いつ世界に告げるか”を

 毎回決めている。」


彼女は、

別のウィンドウに映る

第二インパクター案の資料を見やった。


「……アストレアAは、

 いまのところ問題なし。」


「でも本当に試されるのは、

 こっち――

 “二本目の矢”を

 撃つかどうかの判断よ。」


「“初動をミスった連中に

 また任せるのか”って

 言われたとき、

 どうやって

 世間を説得するか。」


JAXA側からの映像では、

白鳥レイナが

難しい顔で資料を読んでいた。


「説得って言うより、

 “全部見せるしかない”と思ってる。」


「なぜこういう軌道にして、

 なぜこのタイミングで打つのか。」


「数字を隠そうとするほど、

 余計に数字が

 化け物みたいに見えるから。」


アンナは小さく頷いた。


「同感。」


「……そういえば、

 日本の新聞の連載、

 英訳版を途中まで読んだわ。」


「書いた記者さん、

 けっこう意地悪な視点も持ってるのに

 最後は“しつこく考え続ける人間の話にしたい”って

 締めてた。」


オペレーターがモニターを覗き込む。


「いいじゃないですか、“しつこい人類”。」


「隕石相手なら、

 そのくらいでちょうどいい。」




《とある中学校・放課後の図書室》


机の上には、

今日の新聞とタブレット。


科学部の生徒たちが

集まっていた。


「ねえこの図、

 分かりやすくない?」


一人の男子が、

連載記事のイラストを指さす。


『オメガ発見からの数日間で、

 確率ラインが

 “ジェットコースター”みたいに

 上下しているグラフ』


「“最初はふらふら、

 観測が増えるほど線が落ち着いていく”って

 説明、

 なんか納得した。」


別の女子が言う。


「私、

 むしろこっちのが怖いと思った。」


「だってさ、

 “まだ分かんないけど

 当たるかも”って状態を

 大人たちは

 何日も抱えてたってことでしょ。」


「その間、

 普通に授業してたんだよね、

 うちら。」


「先生たち、

 どんな気持ちだったんだろ。」


図書室の窓の外には、

夕焼けと

小さく見える月。


科学部顧問の先生が

棚から資料を出してきた。


「もし興味があるなら、

 IAWNとかSMPAGの

 公式サイトも見てごらん。」


「“世界でどんなふうに

 空を見張ってるか”が

 ちゃんと書いてある。」


生徒たちは

顔を見合わせる。


「宿題増えたー。」


そう言いつつ、

誰も嫌そうな顔はしていなかった。



《新聞社・社会部・夜》


桐生は、

入稿済みの連載第1回の

コメント欄をざっと眺めていた。


<ちゃんと仕組みを説明してくれる記事で良かった>

<3%の時点で教えろって意見も分かる>

<でもパニックも怖いしな……>


<“最初から全部言え”と“余計なこと言うな”の

 両方を言われる仕事、大変そう>


苦い笑いが出そうになる。


(知ってるよ。

 こっちだって

 自分が何様か分からない時がある。)


画面の隅には、

一本の未読メールが光っていた。


差出人:unknown

件名:『連載、読みました』


本文は、

驚くほど短かった。


『あの記事、

 俺のことはまだ出してくれてなくて

 助かりました。』


『“仕組み”から書いてくれて

 ありがとう。』


最後に一行。


『二本目の矢が、

 ちゃんと飛ぶといいですね。』


署名はない。

けれど誰からかは

聞かなくても分かった。


(……見てるか、城ヶ崎。)


(こっちはこっちで、

 やれる形でやる。)


桐生は、

明日の第2回の構成メモを開いた。


『第2回案:

 “二本目の矢”と信頼の残り時間』


宇宙では、

アストレアAが

最初の軌道修正に向けて

ゆっくりとエンジンを噴かそうとしていた。


地上では、

“信じる理由”と“疑う理由”のあいだで

人々の心が

少しずつ揺れ続けていた。


Day47。

オメガまで、あと47日。



本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。

This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.


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