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100日後、巨大隕石落下  作者: 橘靖竜
第二章 真実と混乱

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Day82 祈りの影


《午前8時/東京都・高校》


教室では、教師が黒板に名前を書いている。


「今日の授業は……えっと、“通常通り”やります。」


クラスの真ん中で女子生徒が手を挙げる。

「せんせー、 “隕石落ちる可能性あるのに学校来る意味ある?”」


教師はしばらく黙り、笑ってごまかすように答えた。

「……意味はあるよ。

 少なくとも、君たちの生活の“リズム”は守らなきゃ。」


「でも、落ちたら関係ないじゃん。」


「落ちない可能性も高い。」


「先生、それ逆に怖い。」


教室に小さな笑いが起きたが、その笑いはすぐに続かなかった。



《午前10時/日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》


白鳥レイナは、朝の会議を終えたところだった。


研究員たちがざわざわしている。


「主任、見ました?

 “祈りデモ”の動画。」


「祈りデモ?」


若手研究員がタブレットを差し出す。


画面には、白いローブを着た人々が新宿駅前を占拠し、

ろうそくを掲げている映像。


「天城セラ様の言葉に従え!」

「破壊の後に、新しい人類の時代が来る!」

「恐れる者は、古い世界に属する!」


白鳥は眉をひそめた。

「……宗教が、科学を上回る勢いで広がり始めてる。」


別の研究員が、遠慮がちに言う。

「主任。 科学的説明を出すたびに、

 “セラの言葉のほうが心に響く”ってコメントが増えてて……」


白鳥は深く息を吐いた。

「科学は“心の安心”を作るものじゃない。

 でも、不安が大きすぎると……

 人は“分かりやすい救い”に流れる。」


若手が、ぽつりと聞いた。

「救えるんですかね。僕ら……。」


白鳥は答えなかった。

その沈黙だけが、苦い現実を示していた。



《午後1時/官邸 会議室》


緊急の治安対策会議が開かれていた。


佐伯防衛大臣が報告する。

「関東で“セラ信者”の集団祈りが10件近く発生。

 うち二件が道路を占拠し、交通が麻痺しました。」


中園も付け加える。

「SNS上では“祈れば隕石が落ちても救われる”という動画が拡散中です。」


藤原危機管理監が静かに言った。

「政府の言葉より、セラの言葉のほうが“感情を満たす”のでしょう。」


サクラは腕を組む。

「……対応を間違えると、暴徒化しちゃうわね。」


佐伯が質問する。

「排除しますか? 祈り集団。」


サクラは考えた。

(排除すれば、信者たちは“弾圧された”と言う)

(放置すれば、社会は“セラの世界”に取り込まれていく)


「……まずは“対話”よ。 強制せず、説得から入って。」


藤原が頷く。

「了解しました。」


中園が言う。

「総理、“広報としての手”も考えます。」


サクラは少し微笑んだ。

「お願い。

 こういう時こそ、言葉の力を信じたい。」



《午後3時/都内・繁華街》


白いローブの集団が、静かに祈っていた。


「オメガよ…… 古き世界を焼き尽くしてください」


スマホから、セラの声が流れる。

「恐れを手放した者だけが、新しい世界を見るでしょう。」


その言葉に涙を流す若者。祈る女性。うつむいているサラリーマン。


そこに通りすがりの男性が怒鳴った。

「邪魔なんだよ! どけよ!」


女性は静かに、しかし確固として答えた。

「あなたは古い世界にしがみついているのです。」


一瞬で周囲の空気が凍り、小さな押し問答が始まった。


その場面を、少し離れた場所で桐生誠が見ていた。


(“祈り”は、いつ“争い”に変わるんだろう。)


彼の胸に、冷たい予感が灯った。



《夕方・海外特集番組「ワールド・ウオッチ」》


アナウンサー

「今日は“オメガ隕石”をめぐる、

 世界的な“新たな動き”を取材しました。」


画面には、バンクーバー、シドニー、台北の映像が映る。


白い布をまとい、公園や教会の前で静かに瞑想する小人数の集団。


テロップ=天城セラの動画、海外でも視聴急増=


レポーター

(アメリカ・オレゴン州)

「この“祈りのサークル”に参加している人たちは、

 “破壊の後に新しい世界が来る”という天城氏の言葉に共感していると話しています。」


現地参加者(女性)

「学校も仕事も、お金もリセットされるなら……

 かえって“救われる”気がするの。」


別の男性

「科学者は“20%”とか言うけど、

 俺には“もう決まってる”感じがする。」


スタジオに戻る。


専門家

「不安が長引くと、人々は“自分が納得できる物語”にすがるんです。

 これは、国際的に広がる兆候ですね。」


画面下には、SNSトレンドが表示される。


《#光を受け入れよ》

《#オメガは再生》

《#祈り派 vs #現実派》


社会は静かに二つに割れつつあった。



《午後5時/桐生のデスク》


桐生は、再び城ヶ崎の痕跡を追っていた。


アクセスログ、JAXA内部メモ、匿名フォーラムでの“疑惑の投稿”。


(この男は……

 俺たち記者が“公表を待って記事を書く”しかできない間に、

 ずっと前から“どれくらいヤバいか”を知っていた。

 しかも、それを自分の手でばらまいた。)


編集長が背後から声をかけた。

「どうだ、手がかりは。」


「……あります。

 ただ、まだ“本人を動かせるだけの証拠”が少ない。」


「慎重にやれよ。

 今は何書いても炎上するからな。」


桐生は苦笑した。

「その方が、記事を書く気が湧きますよ。」


「お前、終末でも仕事するんだな。」


「誰かがやらないと。」


そう言った自分の声に、少し驚く桐生だった。



《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》

《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》


ESA責任者

「インパクターミッションの“仮称”を決めたい。

 段取り上、呼び名が統一されていないと進まない。」


NASA主任

「こちらでは“ASTREAアストレア”という案が出ている。

 ギリシャ神話の“正義と希望の星”だ。」


JAXA・白鳥レイナ

「日本では“アストレア-A”を第一インパクターとして扱う前提で計算しています。

 第二機案も検討中です。」


ESA技術官

「では、“ASTREA-A”を仮称として正式記録に残す。」


アンナ・ロウエル博士

「問題は“誰が、どこを担当するか”。

 NASAが主衛星、ESAが加速ユニット、

 JAXAは“衝突角度制御”を担当……これでどう?」


白鳥

「日本としては異議ありません。」


ESA

「ヨーロッパとしても合意します。」


画面には、ミッション工程表の一部が映し出される。


《T-78:設計統合開始》

《T-70:フライトモデル選定》

《T-55:打ち上げ準備開始(仮)》


公式発表はまだ遠い。

だが技術者たちはもう、“人類初の惑星防衛作戦”の名前を共有していた。


アンナは小さく呟く。


(——ここからは、もう後戻りできない)



《午後11時/総理官邸 控室》


サクラは、今日一日の報告を整理していた。


窓の外は静かだ。

だが、街のあちこちに“ひび”が増えているのが分かる。


そこへ中園が入ってきた。

「総理。

 ……あの、ひとつ言っていいですか?」


「どうしたの?」


「今日の“天城セラの配信”、

 若い人たちの間ではかなり影響力がありました。」


サクラは、机の上の資料を見つめたまま言う。

「うん。」


「……本気で、

 この国が“宗教”に飲み込まれる気がします。」


サクラは、椅子の背にもたれて天井を見上げた。

「……人は、恐怖より“救い”を求めるからね。

 それが科学じゃ満たされない時、

 宗教のほうが先に届いちゃう。」


中園が静かに尋ねた。

「総理は……どう思いますか?」


サクラはゆっくり答えた。

「救いを求める気持ちは、否定できない。

 でも……

 “生きる”ための救いじゃないと、

 国が持たない。」


その声は、決意というより、“覚悟の準備”のようだった。




本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。

This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.


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