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100日後、巨大隕石落下  作者: 橘靖竜
第二章 真実と混乱

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Day85 全国声明


《午前9時/総理官邸・広報室》


原稿用紙の束が、机の上に静かに積み上がっていた。


中園広報官がペンを持ちながら言う。

「総理。

 “言葉が強すぎる”と言う官僚もいれば、

 “弱すぎる”と言う政治家もいて……。」


サクラは苦笑しながら原稿を受け取った。

「ねえ、中園さん。

 “みんなが満足する完璧な言葉”なんて、今ある?」


「……ありませんね。」


「でしょ。 だったら私は、“伝えたいこと”を言うよ。」


中園はその言葉に、わずかに救われたように息をついた。



《午前10時/アメリカ・ニューヨーク》


ライブ映像。

繁華街では“終末セール”の看板が立ち並び、

高級ブランドショップには長蛇の列。

しかしその裏で、

別の通りでは武装警官が暴動鎮圧に追われていた。


「市民の怒りと諦めが錯綜し、

ニューヨーク市は“夜間外出禁止令”を検討しています。」


画面は揺れ、警報音が響き続ける。



《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》

《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》


ESA主任技術官

「インパクター本体の候補は

 “軽量高速型”と“質量重視型”の2タイプ。

 どちらもメリットがある。」


NASA・アンナ

「時間が少ない以上、

 加速しやすい軽量高速型が現実的だわ。

 オメガは太陽方向からの接近で観測が不十分。

 “速度で押し切る”方がミスが少ない。」


JAXA・白鳥

「日本は、すでに衝突角度の最適解を計算しています。

 地球軌道との交差点から逆算して——

 “ここ”にぶつけるべきです。」


スクリーンに小さな光点が表示される。


ESA

「衝突ウィンドウは……

 最長でも数週間だな。」


NASA主任

「政治判断が出る前に、

 “技術班だけでやれる準備”は全部やっておこう。」


アンナの目が静かに光る。


(時間との戦いは、もう始まっている。)



《午後1時/総理官邸・会議室》


政府の緊急会議。


藤原危機管理監が簡潔に報告する。

「各国で治安悪化が進行中です。

 国内はまだ大きな混乱はありませんが、

 SNSでは“政府が何か隠している”という噂が止まず……。」


中園が続ける。

「特に“天城セラ”の配信が拡散してます。

 “恐怖を捨てよ。地球は浄化される”というメッセージです。」


サクラは目を伏せた。

「恐怖を捨てる……か。簡単ならいいんだけどね。」


白鳥レイナが少し前のめりになった。

「総理、今日の声明は……“科学的説明”をどれくらい入れますか?

 数字ばかりだと、国民は混乱するかもしれません。」


「うん。数字は最低限にするよ。

 “人としてどう生きるか”を話すほうが、きっと届く。」


白鳥は少し安心したように頷いた。


「その方がいいと思います。

 科学は道具であって……心を支えるものじゃないから。」



《午後3時/総理官邸・控室》


サクラは鏡の前で、ジャケットの襟を整えていた。

緊張ではない。

ただ、“間違ってはいけない”という静かな責任が胸に積もる。


(怖い。)

(でも、言わなきゃ。)


そのとき、控室の扉が軽くノックされた。


「総理、準備整いました。」


中園だった。


「……行くね。」


サクラは深く息を吸い、歩き出した。



《午後3時30分/総理官邸 記者会見室》


ライトが一斉に点灯し、

テレビカメラの赤いランプが次々と光る。


サクラは台に立ち、ゆっくりと口を開いた。



《鷹岡サクラ 全国声明》


「国民の皆さん。

 世界は今、“オメガ・カウントダウン”という重い現実を共有しています。


 隕石の衝突確率は、現在約二〇%台です。

 これは“可能性はある”ということであり、

 同時に“確定ではない”ということでもあります。

 まず、落ち着いてください。」


カメラのフラッシュが止む。室内が静まり返る。


「不安を抱えているのは、私も同じです。

 家族が心配です。

 皆さんと同じように、私にも大切な人がいます。

 でも、恐怖に飲まれたままでは、

 大切な人を守る力がなくなってしまいます。」


少し間を置いて、続けた。


「仕事を続ける人、休む人、

 学校へ行く人、行けなくなった人。

 どの選択も、間違いではありません。

 “今日をどう生きるか”は、皆さん一人一人のものです。

 ただひとつだけ、お願いがあります。

 ——冷静でいてください。」


画面の向こうで、全国の人々が息をのんでいた。


「恐怖は、人を孤独にします。

 でも、私たちは一人ではありません。

 政府は、可能な限り情報を共有し、

 皆さんの“今日”を守るために動き続けます。

 どうか、家族と、友人と、

 あなたが守りたい人と、一緒にいてください。

 そして……

 もし空を見上げる余裕があれば、見てください。

 今日の空は、まだ青いです。」


その表情は、強くも優しかった。


声明は、7分間で終わった。

最後の言葉は、“願い”のように聞こえた。



《同時刻/全国》


◆【大学講義室】教授は授業を止め、静かに言った。

「……今の総理の言葉、悪くなかったな。」


学生たちはスマホを見つめながら、黙って頷いた。


◆【大阪・商店街】八百屋の店主がテレビを見ながらぼそっと言う。

「冷静でいろ、か。……難しいけどな。」


◆【北海道・小学校】教師が教室に入り、笑顔で言った。

「みんな、ひとまず大丈夫だから。

 お昼休み、外で遊んでいいよ。」


子どもたちは弾けるように走り出した。


◆【地方の病院】看護師たちが廊下で映像に見入る。


「総理も怖いんやな……そらそうか。」



《同時刻/海外》


◆【ロンドン】地下鉄のホームに“Stay Calm, Tokyo”の文字が流れた。


◆【ニューヨーク】暴動中の若者がスマホでサクラの声明を見ていた。

「……なんだよ、この人。普通に聞ける。」


◆【アメリカ・NASA/PDCO(惑星防衛調整)】

アンナ・ロウエル博士が研究室で映像を止める。


「……サクラ。強いな。」



《ニュース特集「世界の動き」》


「次は“オメガ隕石”関連で拡散中の宗教的ムーブメントについてです。」


画面には、アメリカ・オレゴン州やカナダ・バンクーバーの公園で、

白いローブをまとった小さな集団が手をつないで座る様子。


テロップ:=“Rebirth Circle”(再生の輪)海外で発生=


レポーター

「参加者は“これは破壊ではなく再生だ”とSNSで主張しており、

 その多くが日本人女性・天城セラ氏の投稿を引用しています。」


海外の参加者(20代男性・インタビュー)

「セラの言葉は落ち着くんだ。

 “お金も学歴も意味を失う。魂の価値だけが残る”って……

 正直、救われた気がする。」


キャスター

「海外でも“祈り派”が生まれ始めていますね。

 まだ少数ですが、世界の空気は確実に変わりつつあります。」


スタジオの解説者が静かに言う。

「オメガは、科学だけでなく“価値観”まで揺らしている……

 その兆候でしょうね。」



《午後4時/総理官邸 控室》


サクラは控室に戻り、静かに椅子に座った。


中園が近づく。

「総理……すごく、良かったです。」


「ありがとう。

 でも、“完璧じゃない”って分かってる。」


「完璧なんて、誰も求めてませんよ。

 “人間の言葉”が必要だったんです。」


サクラは少しだけ笑った。

「そう……ならいいんだけど。」


そのとき、控室の窓の外で夕方の光が傾いた。

青い空は少し赤く染まり、どこかで風の音が小さく鳴った。


世界は終わりに向かっていた。


でも、その中で人々はまだ、生きようとしていた。



本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。

This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.


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