1/3
番外編① 香草の贈り物
―ミナ視点/本編第一章の裏話―
その日、雑貨屋リリィ堂には珍しい客がやってきた。
手入れの行き届いたマントを羽織り、しかしどこか不慣れに歩く青年。
「……あの、これをください」
彼が差し出したのは、薬草棚の奥にある“香り袋”だった。
旅人や兵士が好んで買う、疲労回復と安眠の香草。
「お仕事、大変なんですね?」
自然と口から出た言葉に、青年は少しだけ笑った。
「ええ、まあ……人前に出る仕事でして」
「ふふ、きっと立派なお仕事なんでしょうね」
「いえ、そんな……」
その照れくさそうな笑みが印象的だった。
けれど、その笑顔を見た瞬間――どこかで見たことがあるような気がした。
ミナは首をかしげながら、包み紙に香草袋を包む。
香りがふわりと広がり、青年の肩の力が少し抜けたように見えた。
「この香り、なんだか……懐かしいです」
「おばあちゃんの調合なんです。疲れたときに効くんですよ」
「……そうですか。いい香りですね」
そのときの彼が――まさか王子だったなんて。
あの瞬間を思い出すたび、ミナは今でも少し頬が熱くなるのだった。




