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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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8 宿題日和(2)

 二人で課題を進める。

 教え合いながら進めるこんな時間は、あたしに以前の時間を思い起こさせた。

 つまり、アンナちゃんがまだいなくて、あたしが尚を好きだって気づく前のあたしたちだ。


 ふっとしたことで、隣を見た時の尚の前髪に気を取られたり、シャーペンを持つ手を見てしまったりすることは、あるけど。


 ちょっとドキドキしながらノートの構成を考えて、課題を進めていく。


 1時間ほど経って、問題を一通り終えたところで、尚が、

「ふぅ」

 なんて息を吐きながらオレンジジュースを啜った。


「やっぱお前居てくれてよかったよ。英語はお前の方が得意だもんな」


 そんなことを言われ、少しムッとする。

「アンナちゃんは、どうなの?」

 そんなセリフは口をついて出た。

 だって、アメリカから来たんなら、英語だって得意じゃん?

 あたしなんて、お役御免なんじゃない?


「それがさ、日常会話は日本人と変わらないから得意そうに見えるけど、英語の教科書、読むの苦手らしいんだ」

「そうなの?」

「ああ。英語の教科書って、専門用語満載で文法難しく書いてあるだろ?英語の文法自体、それほどやったことないのに、って」

「へぇ、そうなんだ」


 少しホッとした、その時だった。


「アイツ、昨日も高1の教科書と睨めっこしててさ」


『アイツ』『昨日』


 心の中で、へぇって思う。

 アイツで、昨日。

 もう、そんなに近い存在なんだ?アイツって呼べるくらいの。昨日何してたか当たり前みたいに知ってるくらいの。

 あたしは、尚が昨日何やってたかだって、全然知らないのに。


 表情が固まるのを堪える。

 がんばって、笑う。


 出来るだけ顔を見せないように、ノートに視線を落とす。


 すると、隣でバカッとスナック菓子を開ける音がした。

「え?」

 呆気に取られる。まだ、課題中ですけど?

「この問題二人で見直したら終わりだろ?休憩しよう、休憩」

 もうすぐ課題も終わるっていうのに?


 けど、正直、まだここにいていいって言われてるみたいで、嬉しかった。


「しょ、しょうがないなぁ」

 なんて言いながら、スナック菓子に手を伸ばす。

 ちょっと嬉しいのが漏れ出てしまったのか、

「菓子に釣られちゃって、まぁ」

 なんて尚がからかってくる。

 そういうんじゃないもん。……嬉しい理由を口に出すつもりもないけど。


 サクサク。甘い。


 ちょっと甘党なところもかわいいと思ってしまって、そしてそんな思考がちょっと負けた気になってしまったりして。




 ふっと夕方の空気を感じた、その時だった。

 バタン!

 扉が開く。


「……!?」

 ビクリとする。


「尚人!ただいま!」


 ただい……ま……?


 ふっと目をあげると、そこには、アンナちゃんがいた。

 キュルンとした明るい瞳。


「な、んで勝手に入って……」

 尚が困ったような声を出す。アンナちゃんは、「てへ」とかわいいウィンクをした。


 頭が混乱した。

 こんなことが、日常茶飯事なの?

 一緒に、住んでるわけでもないはずなのに。『ただいま』って何?

 勝手にドア開けるような関係、なの?


「あ、英語の課題!尚人、あとで見せてよ!」


 なんで尚に言うの?

 あたしもいるのに。


 あたしが先にここにいたのに。


 つい泣きそうになって。

 泣いてしまうのは困るから、ノートもペンもペンケースもそのまま鞄に放り込んで、あたしはその場で立ち上がる。


「じゃ、あたし時間だから帰るね」


「え、ちょっと」

 呼び止める尚の顔も見ないで、笑うフリだけして。

 あたしはその部屋を飛び出したんだ。

ちょっといい感じだったのですが、邪魔が入りましたね!!

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