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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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7 宿題日和(1)

「またね」

 と、あたしは綾と優香に手を振った。

 放課後。

 今日は二人とも予定があるので、あたしは一人でご帰宅だ。


 英語の課題、二人とやろうと思ったんだけどな。


 こんな日は、以前は尚と課題をすることが多かった。

 けど、ここ数日、あのイチャイチャを毎朝見せられているあたしは、もうすっかり疲弊していたのだ。

 前はもう少し家にお邪魔することもあったけれど、アンナちゃんが来てからは、朝後ろから恨めしく歩く以上の交流はほぼ無くなっていた。


 学校では、

『桐生は莉子からアンナちゃんに乗り換えたんだよ』

 なんて言うやつも居るくらい。

 あたしの居場所は、アンナちゃんに取って代わられていたんだ。


 といっても、元々帰りは別々だし、今までだって学校ではほとんど優香と綾と一緒にいたはずなのだ。

 そんなに、周りから言われるほど離れたわけないんだけど……。


 確かに、一人ぼっちな気持ちになっちゃってるけどさ。


 ぼんやりと一人、とぼとぼと歩いていると、

「莉子」

 と声をかけられた。


 ふいっと見ると、尚が一人で違う方角から帰って来るところだった。

「コンビニ?」

「うん」

 方角とラフな姿で、コンビニに寄って帰ってきたことまでわかってしまうのだ、あたしは。


「へぇ」

 チラリと見ると、コンビニの袋の中にはお菓子と飲み物が入っているみたいだった。

 ……つい、一緒にお菓子を食べる尚とアンナちゃんの姿を思い描いてしまう。

 そんな風に言われたわけでもないのに。


 くるりと家に入ろうとすると、

「莉子」

 とまた呼び止められた。


 言葉もなく、尚へ振り向く。

 心臓が、ドキドキしてしまう。


 そこで、青い空を背景に、尚はこう言ったんだ。

「今日、英語の課題あったろ?一緒にどう?」


「え、ああ」

 まるで、課題を忘れていたみたいな返事を返す。

 朝の地獄の時間が放課後まで続くのはちょっと遠慮したいんだけど。

 けど、尚が誘ってくれるなんて思わなかったから、嬉しい気持ちに嘘はつけない。

 尚とアンナちゃんを二人きりにするのが嫌だというのも正直なところ。


「うん、いいよ」


 そう言って、あたしは自分の家には帰らず、尚の家に上がり込んだんだ。




「お邪魔します」

 久しぶりの尚の部屋。

 中央には、子供の頃から使っている、二人で宿題する用に用意した大きめのテーブルが置いてある。

 ちょこん、と座布団に座ると、

「何、今日は大人しいのな」

 なんて、尚にからかわれた。


「ひ、久しぶりだから」

 なんて言ってはみるけど、実際は、好きだと自覚して初めての部屋だからだ。


「あれ、アンナちゃんは?」

 てっきりいると思って覚悟して来たのに、部屋には他に誰もいなかった。

「そんなにいつもいるわけじゃないよ」


 なんて言うセリフに、心の中で、

『あんなに毎日ひっついてるくせに』

 って悪態をつく。


 気を取り直してテーブルに出されたオレンジジュースを啜りながら、英語の課題のプリントを出した。

「時制……ふむふむ」

 なんて言いながら、心の中でほっとする。

 今日、アンナちゃんいないんだ。


 ということは、二人っきりだというわけで。


 あたしの神経は隣に座る尚の存在に集中する。


 尚のいる左側が、他よりもあったかい気がした。

やっとちょっといい感じに……!

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