60 暑いんだから泳がなくっちゃ(4)
何だかよくわからないけれど、両手を繋いで三人で食事を買いに行く。
右手を掴む尚の手に力が入った。
……どっちかっていうと、尚に引っ張られる感じになっちゃったな。
「どれ?」
拓真が聞いてくる。
「アイスクリーム!」
「またそんな溶けそうなやつな」
「いいじゃん。美味しいよ」
「ほんと、お前らはアイス好きだよな」
お前らっていうのは、あたしと尚のことだ。
あたしと尚は、昔からちょくちょく二人でアイスを食べているから。
「ふふっ」
ちょっと楽しくなってきたところで、
「みんな!」
と後ろから声をかけてきたのは、アンナちゃんだった。
「ワタシも、ジュース買いに……!」
多分、あたしたちに追いつこうと慌てたんだと思う。じゃなかったら、尚とあたしがいて緊張しちゃったとか。
その瞬間、アンナちゃんは、ずべっ!と効果音がしそうな勢いで、派手に転んだ。
うっかり、三人でその姿を眺めてしまう。
というか、あたしが咄嗟に飛び出さなかったのは、拓真と尚のどっちもあたしの手を離そうとしなかったからなんだけど。
起き上がったアンナちゃんは、そこにへたり込んだまま、足首を抑えた。
「痛……っ」
アンナちゃんはパッと顔を上げて、あたしでもうっかりキュンとしてしまいそうな泣きそうな困った顔を、尚に向けた。
「尚人……」
尚の手が、あたしから離れていく。
あ…………。
仕方ないと思う。
尚はあたしのじゃないんだから。
けど、それが当たり前みたいに、こんな風に別の女の子のところに向かう尚を、目の前で見たくはなかった。
それなのに、尚がアンナちゃんを助け起こすその姿は、海が反射する陽射しの中でキラキラと輝いて。
まるでそれは、恋愛映画のワンシーンみたいで。
目の前のことから目が離せなくて。
離せなくて、それで……。
「……!?」
左手が、ぐんと引っ張られた。
そっちの方を見ると、それは当たり前なんだけど、ずっとあたしの手を握っていた拓真だ。
何も言わずにアイスクリームの移動販売のお店へ歩いて行く。いつもと同じ調子で。
名前を呼ぼうとしたけれど、あたしの喉にはさっきの光景がこびりついたままで、声は出なかった。
動けなくなってしまったのがバレたんだろうか。
それとも、マイペースな拓真のことだから、何も考えずに先を急いだ結果だろうか。
もう見えなくなった背中の向こう側を気にしながらも、もう見えなくなったことに少しだけほっとしたりもして。
あたしは拓真にそのまま手を引かれて行ったんだ。
それからすぐに目の前のカラフルなアイスクリームバンで視界はいっぱいになったんだけど、上手く注文は出来なかった。
結局、岩陰の人の少ない波打ち際まで拓真に誘導されて、そこへ二人で座り込んだ。
目の前に、ストロベリーのアイスクリームが差し出される。
左手は拓真が掴んでいるので、そのままアイスにかぶりついた。
思った以上に濃厚で美味しいアイスクリームだ。
ふと視線を上げると、拓真がじっと、こちらを窺うように見つめている。
戸惑いながらもぼんやりした頭で、揺れる前髪や眼鏡の奥の瞳を、今までこんなに近くで見たことはあったっけ、なんて思いながら、あたしはただ眺めていたんだ。
アイス買ってる間は手は離してたんですよ。




