59 暑いんだから泳がなくっちゃ(3)
「いただきま〜す」
海は、なかなか楽しいところだった。
尚とも、遊べたし。
まあ、目の前の状況を見るに、一人置いていかれたあたしが不憫だった、というだけなんだろうけど。
きっと今でも、友達でいてくれるつもりなんだし。
広げたレジャーシートの上で、それぞれが買ってきた焼きそばやらおにぎりやらを囲む。
目の前では、ラブコメが繰り広げられている。
尚の隣に、アンナちゃんが座っている。
アンナちゃんは、尚と手が触れれば照れた顔を見せ、目が合えば困ったように笑う。
やっぱり、微妙な空気になっちゃってるのは、この集まりにあたしがいるからだろう。
そりゃあきっと、“カレシ”が別の女の子誘って遊んでたら、複雑な気分にもなるよ。それくらいは、あたしにだって想像できる。
あたしはいたたまれなくなって、
「焼きそばおいしー」
なんて、どうでもいいことを呟く。
それに反応したのは、隣にいた拓真だった。
「ちょーだい」
拓真は意外と食べるのが好きだ。
「はい」
そして、適当にあげるわけだけど、こういう時はちょっと自分が優位に立っているような気分になって、正直それほど悪くはない。
とはいえ、焼きそばをあーんさせるわけにはいかないから、そのまま焼きそばを預けてしまう。
「あ、ねぇ、あれ、何の鳥かしら」
「カモメかなぁ?」
「鳴いてるの鳥の声だよね」
隣にいた綾と海を眺めていると、隣から、ずぞぞぞぞと焼きそばをすする音がした。
「えっ」
慌てて拓真を見ると、焼きそばをかきこんだまま、純粋無垢な目であたしを見た。
「……一口でしょ」
「一口だよ」
「それが!?」
思わず半泣きになる。
「そっちのもちょうだい」
口を尖らせて拓真の持っていたたこ焼きを一つ奪ったけれど、満足は出来なかった。
「わかったわかった」
拓真が呆れた顔で立ち上がる。
「なんか奢ってやるから、来いよ」
「はぁい」
そこで声を上げたのが尚だ。
「僕も行くよ」
一瞬、心臓が飛び跳ねる。
こんなの、ご飯を一緒に買いに行くなんて、深い理由なんてあるわけないのに。
そりゃあ、兄がご飯買いに行くなんていったら、弟がついていったって、何の不思議もないのだ。
けど、拓真はなぜだか好戦的だった。
「尚人、来んの?」
それはもう、来ない方がいい、みたいな空気を帯びて。
「うん」
あらら?
尚の返事も、なんだかトゲのある声だった。
まあ、『来んの?』なんて言われたら、トゲトゲしくなるのも仕方ない。
「行こ」
尚が、あたしの右手を掴む。
「尚……!」
……またこんなことをして誤解されたら、困るのは尚なのに。
引き剥がそうとしたところで、
「は?」
声を上げたのは拓真だ。
「じゃあ俺も」
そして拓真があたしの手を取って、左側に並ぶ。
さ、三人ならセーフだろうか……?
「ふっ……ふふふふふふ」
あたしはそんな二人のやり取りに笑いながら、久しぶりに並ぶ三人の居心地の良さを愛しく思ったんだ。
嫉妬しつつも莉子ちゃんから見るとほのぼのらしいです。




