56 二人で一緒に
毎日がつまらなかった。
莉子が兄貴と出かけたらしく、モヤモヤとする。
付き合ってたらなんだって言うんだ。
結局、思い悩んでそんな風に思う。
諦められるわけないんだ。何にも動いてないんだから。
きっと、例え付き合っていると言われても、どう取ってやろうか考えてしまうに決まってるんだから。
そんなモヤモヤを抱え、八つ当たりにも近く、結局公園で長時間バスケに勤しんでしまった、そんな8月の夜だった。
コンビニに寄って、アイスを二つ買う。
もし、莉子がいたら、なんて、そんな希望を持って、ついいつもアイスは二つ買ってしまっている。
人の少ない住宅街を歩く。コンビニからなら5分ほどの、灯りの多い道のり。
月も星も見えない、都会の街の片隅。
普段はそれほど人と会うなんてことはないのだけれど、向こうから人影がやってくるのが見えた。
あの小ささは。
「莉子」
「尚」
ふるふるっと揺れる肩より短い髪。
心臓が高鳴る。
ほとんど、1ヶ月ぶりと言ってもよかった。
莉子と会いたかった自分を実感した。
「何やってんの、こんな時間に」
我慢しきれず、声をかけた。
実際、スマホの時計を見ると、夜の9時を回っている。こんな小柄でかわいい女子が一人で歩いてるなんて、危ないにも程がある。
「ちょっとコンビニ」
そう言って少し笑う。
ほら、危ないじゃないか。
「アイスならあるからさ、一緒、帰ろ」
「え、なんでアイス……」
有無を言わさず、僕はコンビニの袋から、アイスを一つ選ばせる。
「一人にさせるわけにはいかないからさ、ちょっと散歩行こ」
そして僕は、家とは反対の方向へ、莉子の手を引いていったんだ。
ちょっとでも、離れたくなかった。
「夏休みどう?」
平静を装いながら、いつもみたいな会話をする。
出来れば次の約束を取り付けたいなんて思いながら。
「う〜ん。課題はもうちょっとかな。英語の課題、訳でわかんないとこあるから、綾に聞こうと思って保留にしてあるんだ」
「え、そんな難しいんだ?まだ半分くらいしかやってないや」
よし、今だ。
「今度さ、一緒に課題やらない?」
いつも通りを装って言葉にする。
そこで莉子が「ふふっ」と笑う。
「またまたそんな、答え写そうと思って〜」
会う口実にしてるなんて、思ってもみないんだろうな。
けど、いい感じだ。
けど、もっと。
もっと、一緒にいたい。
「海でも行こうよ」
ふっとそんなことを言ってみる。
もし、二人で、出かけられたら。僕は。
心臓が、ドキドキする。
莉子が、僕を見上げる。
お願いだ。お願いだ、莉子。
莉子のキュルンとした瞳が、僕の顔を覗く。
「うん、いいね」
返事は、思ったよりもあっさりと返ってきた。
や、や、やったあああああああああああ……。
「拓真も誘っていい?」
「え?」
え…………。
兄貴???
じゃあ僕は……?僕の立場は……?
「みんなで出かけるの、夏休み入ってから初めて」
なんて、莉子が笑う。
ははぁーん、“みんな”ね。
二人で行きたい気持ちはまったく伝わっていなかったらしい。
『二人で』と言い直そうとして、口をつぐむ。
「……うん、それはよかったよ」
なんてかろうじて返事をして、またモヤる。
なんで、まず兄貴なんだよ。
やっと会えましたね!まあ、課題は二人でやるんだろうし、これはこれで……?




