表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/57

54 ひとりぼっちの夏休み(2)

 家の中に鳴り響いたインターホンに、兄貴が応答した。

 簡単に会話をして、兄貴がリビングに戻ってくる。


「……?」


 兄貴が会話をするくらいだから、知り合いだったんじゃないかと思う。

 手には、小さな紙袋を持っていた。


「誰だったの?」

 その質問に返ってきたのは、

「莉子」

 という一言だった。


「莉子?」


 思わず聞き返してしまう。

 あれほど会いたかった名前が出てくるとは思わなかったのもある。それに、『それはなんだ』とか『あがって行きもせずに帰ったのか』とか、聞きたいことは山程あった。


 そんな呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか、兄貴は、

「クッキーだってさ」

 と、袋を開けて、その莉子のクッキーをおもむろに食べ始める。


「あ!?」


「あ?」

 僕の叫びに振り向いた兄貴は、すでに3つ目を口に押し込んだところだった。

 目が合って、ようやく僕のことに気づいたと見えて、兄貴はやっと、

「あ、食べる?」

 と、テーブルの上に差し出した。


 無造作に置かれた紙袋の中には、一口で食べられるほどのサクサククッキーが10枚ほど入っている。

 貴重な莉子のクッキー……。


「……これって、兄貴宛とか?」


 万が一のことを考えて尋ねてみた。いや、もしそうでも、くれるというなら食べるんだけれど。


「いんや、友達と作ったら、作りすぎたからやるって」


「へぇ……」

 少なからず、兄宛ではないことに安堵する。

 いや、これは安堵していいところか?


 クラスの女子たちは時々、意中の人にあげる口実で『作りすぎちゃった』を発動することがあると聞いたことがある。

 もし……、兄貴の口に入るように、手渡してきたんだとしたら?


 可能性を振り払い、クッキーを口に入れる。

「…………おいしい」


 感慨深く呟くと、兄貴が、

「ふっ」

 と小さく笑う。


「……なんだよ」

 こいつは、意味ありげに笑うのが好きなのだ。


 それは、勢いだった。

「莉子ってかわいいよな?」

 二人の関係を確かめたいと、そう思ってしまったから、つい、そんなことを口に出した。

 クッキーが兄貴に手渡されたことに、少し不安を覚えたのもある。


 妹とか、家族とか、そんなものならいいと、そう思って。


「ああ。かわいいし、気が合うよ」


 その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になる。

 ああ、ダメだ。

 この口調は、ただの妹や友人のそれを超えた何かの感情が含まれた声だ。


 心臓が、静かに鼓動を早くする。


「じゃなかったら二人で会おうとか、思わないよ」


 ()()()


 今、そう言ったのか?

「え?」

 ふっと顔を上げた。

 莉子が部屋に上がり込んでいることを、言ってしまうんだと思ったから。


 けれど、兄貴はこう続けたんだ。

「今度、会うよ」


 今度?

 ほぼ、毎日のように会っているのに……?


 その瞬間、わかってしまった。

 それは、人目につくところで会うってことだ。

 例えば、外で、二人で会うとか。


「なんで……」


 そう聞いた僕を、兄貴はじっと見据えた。

「それはヒトに言うようなことじゃないから」

 穏やかな顔で笑う。


 このままじゃダメだ。


 会えないまま不貞腐れているだけじゃ。


 僕の手の届かないところまで、莉子が行ってしまう前に。

作者としてはこのままお兄ちゃんルートでも問題ないわけですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ