53 ひとりぼっちの夏休み(1)
僕が泣いているアンナを追いかけた時、莉子と出くわした。
莉子は何も言わないまま教室に入って行って、それ以来会話を交わしていない。
朝も会えなくなった。一緒に学校に行くことがなくなった。早朝家の前で待っていても、それよりも早く学校へ向かったらしく、遅刻ギリギリの時間になっても出てこなかった。
帰り捕まえることもできなかった。いつだって女子たちが一緒だった。
「なんで……」
“なんで”なんて言葉が、頭の中を巡る。
けど、そんなの、あのこと以外に何があるんだよ。
嫉妬だったりしないか……?
なんて、自分に都合のいいことを考える。例えば、アンナと一緒にいたから。
けど、それよりも、もしかしたら僕が、あそこで正直に莉子の名前を出してしまったからという可能性の方が高い気がした。
僕の気持ちがバレたんだとしたら、莉子は僕を避けるかもしれない。好きじゃないなら、余計に。
もしくは、莉子への気持ちがありながら、アンナと一緒にいる不誠実な人間、だとでも思われたんじゃないか。
どちらも僕を避ける理由としては十分な気がした。
僕は、自室のデスクに突っ伏した。
夏休みだっていうのに、莉子に会えていない。
去年までの夏休みなら、莉子は毎日のようにうちにいた。正確には、うちのリビングに。
いつだって、バスケから戻って、リビングに入ると莉子がいた。
それから二人で話をしたり、一緒に課題をしたりする時間が、穏やかで幸せだったっけ。
小学生の頃から夏休みの日常といえばそれだったから、今、莉子のいない日常は寂しくて、受け入れ難いものだった。
「…………」
むしろ、莉子の気配は隣の家から、もしくは隣の兄貴の部屋から、あり過ぎるくらいにあった。
耳をすませば隣の部屋から莉子の声が聞こえることも多い。
……今も、隣の部屋から莉子と兄貴が会話しているらしき声が壁越しに聞こえていた。
実際、莉子はうちのリビングにいない代わりに、よく兄貴の部屋にいた。
話し合う声、相変わらず黙っているだけの時間も多い。
何を話しているのかは流石に聞こえないから、ただ莉子がそこにいるという事実を突きつけられるだけだ。
今までだってこんな時間は長かったはずなのに。
今まで以上に、喉の奥が苦しくなった。
今までのいつよりも、僕は莉子に会うことが許されていない。
スマホを眺める。
連絡出来ればいいのに。
……グループの中にお互いいるので、物理的には可能だけれど。流石に、この状態で突然連絡するわけにはいかないよな。
デスクの上には、なかなか進まない夏休みの課題が山積みになっている。
莉子と一緒にやっていた時は、あんなに楽しく進められてたのに。
愛用の莉子とおそろいのシャーペンが、手の中から転がった。
「やる気出ない……」
愚痴るように一人呟く。
夏休みがこんなに長いものだったなんて、去年までの僕は知らなかった。
これも身から出た錆なんじゃないでしょうかね。




