52 大丈夫だから(2)
窓を閉めて、カーテンの下に二人で座り込む。
「あのね、」
あたしはボソボソと喋りだす。
内容が内容なのもあるけれど、目の前であれほど泣いてしまうと気恥ずかしさはハンパないものになっていた。
「尚とアンナちゃんが、喧嘩?か何かしててさ」
「喧嘩?」
「痴話喧嘩?みたいな。アンナちゃんが泣いてて。尚がそれを追いかけて」
「追いかけて、か……」
「それがね、あたしのせい、みたいなんだ」
「……何で?」
「たぶん、あたしが、尚と一緒にいたから。邪魔、しちゃってたみたいで」
「…………」
拓真は、何も言わなかった。
ただ、呆れたように少し笑った。
外はもう暗くて、ただ、部屋の中には拓真の部屋の明かりだけが窓から入ってきていた。
「あーあ」
あたしが、自嘲気味に笑う。
「大丈夫」
やっぱり拓真はそう言った。
「俺、いるし」
「…………」
それがどういう意味なのかじっくり考える。
そして結局、あたしの口から出たのは、
「そっかぁ」
なんていう、当たり障りのないフワフワとした言葉だった。
嬉しくないわけじゃない。
嬉しくないわけじゃないよ。
それから、時間をかけてあたしたちは、ちょっとした雑談を始めた。
「今度のイベントでさ」とか「夏休みなんだから」とか「美味しいアイスが」とか。
そんな、どうでもいいことだ。
けど、そんなどうでもいいことは、今のあたしには大事なことみたいだった。
この話が終わってしまえば、また一人になってしまうことが分かっているから。
ひとしきり話をして、いい加減、夕食を食べないといけない時間になって。
「俺、そろそろ帰るわ」
なんて、拓真が立ち上がる。
それは、あたしの部屋にあまり遅くまでいると迷惑になるだろ、なんていう意味も含まれていた。
一人にされそうになって、あたしが泣きそうな顔で見上げると、また拓真は、居心地の悪そうな顔をする。
けど、だからといって、ここにいてくれるわけじゃない。
ただ、拓真はまたあたしの正面にしゃがみ込んだ。まるで、小さな子をあやす時みたいに。
「夏休み、どっかいこ」
そして、小さな子をあやす時みたいに、あたしに声をかけた。
「うん」
返事は、自然と出てきた。
「イベントもあるしさ」
「うん。売り子、してもいいよ」
「ああ。ありがたい」
「うん」
「いつでも俺の部屋、いてもいいから」
「うん」
そして拓真は、窓を乗り越え、自分の部屋へと帰って行った。
一人取り残される。
けど、思ったよりはさみしくない。
目の前の部屋は相変わらず薄暗くて。
部屋の中は蒸し暑くて。
それでも、きっと、一人でうずくまっていた時とは、違う感じがした。
拓真の部屋はカーテンを閉めないまま、この部屋を照らし続けていた。
あたしは静かに、静かに、この夏の夜の中で、何かを整理するみたいに、じっとその薄闇を見つめていたんだ。
莉子ちゃんも少しは元気になったでしょうか?




