49 誤解(1)
事の発端は、僕とアンナが会話をしなくなったことによる。
ケンカでもしているように見えたのか、アンナが僕に話しかけたそうにしたのか、僕とアンナを見たクラスメイトが、僕に声をかけてきたのだ。
「なんか、二人最近おかしくね?」
「え?」
確かに、今までと一緒だとは言い難い。
ただ、おかしいのは今じゃなく、以前がおかしかったのだ。必要以上にひっついて。必要以上に近い距離で会話をしていた。
「おかしくないよ。これが普通」
あっさりとそう返す。
ふと見ると、アンナは泣きそうな顔で、じっとこちらを見ていた。
「だって尚人、今日は莉子と一緒に学校来てたもんな」
「え、どういうこと……?アンナちゃんとは……?」
苦い気持ちが喉をせり上がる。
アンナは無言で、同意も反論もするつもりはないらしい。
けれど、そのじっと見る視線は、僕を居心地悪くさせた。
「そういうこと?」
「ただの喧嘩じゃなくて?終わった???」
「元々そんなんじゃないって」
「じゃあなんでそんな冷たくするわけ?」
「アンナちゃんかわいそうじゃん」
「話だけでも聞いてやれば?」
本当にアンナとはそんな関係じゃないんだし、お節介なやつにはそれだけを伝えて無視しておけば、静かになるだろうと思ったんだ。
けど、この会話は教室の向こうの隅にまで、届いてしまったらしかった。
幸い、莉子は教室の中にはいない。
こんな噂話に巻き込むわけにはいかなかった。
けど……。なんだよ、この状況……。
遠くで女子たちの声が聞こえる。
「あれって……」
「桐生が振ったんじゃん?」
泣きそうなアンナに寄り添ってくる女子も散見された。
「ち……違うの」
アンナの、絞り出すような声に、教室中が耳を傾ける。
穏やかな空気はすっかり崩れ去り、教室は異様な空気に包まれる。
ただ、刺々しいだけではない。
同情、興味、冷笑、嘲笑、敵意。
その場にいる人間の数だけのごちゃごちゃした気持ち。
それがこの教室という箱の中に押し込められたみたいに、圧縮されて、今にも爆発しそうに場を観察している。
「ワタシが……勝手に………………」
下を向くアンナの瞳から、大粒の涙が溢れる。
なんだよこれ。
僕が……この状況を招いた?
「ほんと、違うんだ。僕はアンナと付き合ったことはない」
もう、本当のことを言うしかないと思った。
誤解を解く方が、アンナにとってもいいはずだ。
「ただ、面倒を見ていただけで。僕はずっと……、一緒にいるのは、……いたいのは……、莉子だけだよ」
全員がハッとする。
これで、アンナからみんなの視線を逸らせると、そう思った。
けど。
アンナが、ぐるりと後ろを向き、泣きながら教室を飛び出していく。
「アンナちゃん……!」
アンナのそばにいた女子の一人が、弾けるように叫んだ。
女子の視線が、僕に突き刺さる。
「な……んだよ……」
仕方なく、アンナを追いかけた。
「アンナ……!」
慌てて出ていくと、アンナは思ったよりもすぐ近くにいた。
さらに逃げようとするアンナを、僕は捕まえなくてはならなかった。
涙でいっぱいのぐちゃぐちゃな顔になったアンナの腕を掴んだ。
「尚人……っ」
アンナの透明な涙が弾ける。
そんな僕とアンナの前に、人影が現れた。
目が合う。
見開いた目が、僕をとらえる。
それは、紛れもなく、友人たちと並んで教室へ戻ってきた莉子の姿だった。
すれ違わないわけないからね!




