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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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48 一緒にいるのは特別なこと(3)

「兄貴……」

 僕は呟く。


 今日夕方頃に家に勝手に入ってくる人間なんて兄貴しかいない。

 それにしても、いつもより早い帰宅だ。

 それでも呟いた通り、姿を現したのは学校帰りの兄貴だった。


 リビングに入ってきた兄貴は、僕たちを一瞥すると、キッチンで冷たい麦茶を喉に流し込む。

 カツン、とコップの音をさせた兄貴は、プリンがあることに気がついたようで、

「おいしそうじゃん」

 と表情筋をあまり動かすことのないまま言った。


「美味しいよ〜」

 と莉子がニコニコと言うと、兄貴がひょこひょこと寄ってくる。

 莉子のやつ、余計なことを……。

 せっかく二人きりだったのだから、もっと二人きりを堪能したかったのだけど。


 そして僕は、ポケットに注意を向ける。

 正確に言えば、ポケットの中の渡せなかった誕生日プレゼントに。


 渡したかった。

 今日、渡せるんじゃないかと思ったのに。


「尚の手作りプリン、すーっごく美味しいんだよ」

 銀色のスプーンに少し硬めの黄色いプリンを載せて、莉子が兄貴に差し出す。

「知ってる」

 なんて言いながら、兄貴はそのスプーンに顔を寄せた。


「…………っ!」


 また、コイツらは……!


 なんで僕の前で、そういうことをするんだよ!!


 そういうのは、見たくなかった。

 付き合ってないっていうなら、これは阻止してもいいよな?


 僕は、がっと莉子の手ごとスプーンを掴むと、そのまま自分の口にプリンを入れる。

 スプーンをくわえたまま、ふと、二人の視線を感じる。

 眉を寄せ、ちょっと引き気味の兄貴と、そんな顔よりよっぽどおかしな顔で真っ赤になっている莉子と。


「…………」


 ごくん。


 やらかしてしまったことに、何の言い訳も出来ず、僕は、スプーンごと莉子の手を離した。


「兄貴の分は別にちゃんとあるから、ヒトの取るとかやめなよね」

 そんな、もっともなセリフで誤魔化しながら、逃げるようにキッチンへ入る。

 冷蔵庫を覗き込みながら、僕は自分の顔を冷ますことに集中した。

 心臓が、バクバクと音を立てる。

 真っ赤な顔を冷ましきるまで、二人の前に出ることは出来なかった。




 それから結局、同じように盛り付けたプリン・ア・ラ・モードを作り、3人で食べることになってしまった。

 莉子が、きゅっと嬉しそうな顔をする。

 まったく。僕の気も知らないで。僕は、二人きりの方がよかったんだけど。


「ふふっ」

 と、莉子がその顔を上げる。

 こちらを向いた莉子に、少しドキッとする。


「3人で食事するの、久しぶりだね」


「うん」

 確かにそうだった。

 僕と莉子の組み合わせはあるし、莉子は兄貴の部屋に上がり込むことはあっても、3人で仲良くというのはあまりない。

 3人で顔を突き合わせるのなんて、家族ぐるみで食事するときくらいだろうか。


 莉子にも、二人きりがいいって思ってもらいたいんだけどな。


 そう思ってもらうには、まだまだ足りないものも多かった。

 僕はまた、ポケットの中に想いを馳せる。

 まずはこの関係を……どうにかしないとな。

次回は新エピソードでいきましょう。

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