45 いつも通りの帰り道
「今日、佐々ちゃんと中川くんが踊ってたやつさぁ」
「ああ、なんか最近流行ってるヤツな」
「あたし知らなかったんだけど、元ネタ」
尚と、二人での帰り道。
いつも通り他愛ない会話をしながら、帰る。
けどあたし、いつも通りに出来てるかな。
さっきのことが頭の中をグルグルと渦を巻いていて、正直いつも通りに出来ているのか自信がない。
さっき、尚は、アンナちゃんとは『なんでもない』って……。
…………いやいやいやいや。
ここで納得しちゃダメでしょ。
アンナちゃんの態度からして、二人がそういう……つまり、レンアイ?的な関係だってことは確定なわけで。
だって、尚の“ホンメイ”はアンナちゃんだって、アンナちゃんに宣言されたわけで。
それってつまり、『ワタシの男に手を出すなー!』的な意味、でしょ。
じゃあ何?
二人って別れたの?
それとも、そんな雰囲気だったけど無理でしたってこと?
それとも、尚が嘘ついてる?
それとも、うちのカノジョは心が広いんで〜とか?
内緒で付き合ってるんで〜とか?
理解できなくて、頭の中がグルグルする。
『知ってるよ』なんて言ったら、さっきの『なんでもない』は、『なんでもなくない』に変わったりするんだろうか。
でも。
それでも。
あたしは、こっそりと尚の顔を窺う。
いつも通り、嘘なんてつかなさそうな、犬みたいな笑顔。
あたしは、さっきの尚を信じたくなってる。
真っ直ぐに見てきた尚の瞳を。
真剣な表情を。
そしてちょっと、『一緒に帰ろう』なんて言われたことを、嬉しく思ってしまってる。
あー。あー。
ダメだこれじゃあ。あたしきっと、騙されやすい人間だ。
けど。
でも。
それでも。
一緒にいられることが、嬉しく思えてしまうから。
「尚さ、」
声をかけるのに手を伸ばしたところで、トスッと尚の手にあたしの手がぶつかった。
ちょっとドキッとしつつも、普段通りを装い尚の顔を見上げる。
え…………?
尚が、ピッタリと固まった顔でこちらを見ていた。
尚…………?
静まり返った空気が流れる。
あたしの心臓の音まで聞こえてしまいそうな静けさだ。
あたしの照れた顔をじっと見られているようで、困惑してしまう。
そんな一瞬は、確かにそこにあった。
けれど、気がつけば、尚はそのままいつもみたいににっこりと笑顔を見せる。
「どした?」
『どした?』はこっちが聞きたいんだけど……!
けど、そんな瞬間のことを言葉には出来なくて。
あたしはなんでもない顔を見せる。
「宿題、一緒にやらない?」
「うん。あの方程式の」
「それ」
「莉子は数学苦手だもんな〜」
「尚だって、そんなに得意でもないくせに」
「じゃあ、部屋で待ってる」
尚が嬉しそうに笑うから、なんだかちょっとドキドキしちゃうじゃないか。
「うん」
あたしは尚の笑顔につられて、「へへっ」と笑って見せたんだ。
アンナちゃんの宣言で引き気味の莉子ちゃんと、莉子との距離を縮めようとする尚人くん。微妙にすれ違い気味ですが、うまく行く日はくるのでしょうか?




