42 恋愛ってやつは
「む〜〜〜ん」
「えー。乙女のため息?」
あたしのため息を聞いて、優香がからかいに近づいてくる。あたしの大事なほっぺたが、優香の指によってぐにんとつっつかれた。
「恋愛って、難しいなぁって思って」
放課後の美術室。
今は、あたしと優香と綾の三人だけだ。
「実は、誕生日に、隣のお兄ちゃんに原画展に誘われてね、」
なんて、あたしはことの顛末を話し出す。
「あら、いいわね」
綾は、どうやら原画展のほうに興味を持ったみたいだった。
「お兄ちゃんと、二人で……。……健全な……?」
「健全な!」
「う〜ん」
と、優香が悩む顔をして、部屋の中を行ったり来たりし始めた。どこかの探偵よろしく、顎に手を当てている。
「まあ、デートはデートでしょ」
「デート……!」
その単語に、あたしがちょっと照れてみたりして。
「やっぱり、デートに見えたりするのかな」
「見える、っていうか、デートはデートでしょ」
「そ、そうなの、かな。けど、誕生日だっただけだし、あたし落ち込んでて慰めてくれただけかもしれないし」
「そんなの、言い訳にしかならない。二人で遊びに行ったのは確かなんだから」
「けど、お互い……そ、そういう気持ち持ってるわけじゃないんだし。友達と二人で遊びに行くことだって……」
「そりゃあ、そういうこともあるかもしれないけど。お兄さんがそういう気持ちじゃないとも限らないんだし。今回の場合はデートだと思うなぁ」
優香のニヤニヤ顔は、実はなかなかにキュートだ。
「けど」
まだ探偵顔を保ったままこちらを向いた優香のツインテールがふわりと揺れた。
「別に悪いことはしてないんだし、いいんじゃない?」
「え?」
そのセリフが意外で、あたしは優香の顔をまじまじと見る。
悪いことじゃない?……付き合ってないのに、“デート”するのが?
「そりゃあ、別に桐生と付き合ってるわけじゃないしね。デートのお誘い受けて、何が悪いの?その桐生が女の子まとわり付かせてるほうが罪」
「あはは」
と乾いた笑いで誤魔化す。
「けどそれだって……同じじゃん。それにもし……あの二人が付き合ってるなら……」
「何言ってるの!」
優香はこういう話になると熱い。
「教室であんな嫌味ったらしいバカップルするのは許されないの!もし、あの二人が付き合ってても!」
そして、優香が付け加える。
「もし、あの二人が付き合ってるなら、莉子にちょっかいかけてくるの許せない」
「はーぁ」
あたしは机に突っ伏した。
「恋愛って難しい」
あたしが呟いた言葉は、すぐ目の前の机に反射して、自分に返ってくる。
返ってきた言葉は、思ったよりもくぐもっていて、ハッキリしない。
「あんな男捨てちゃえよ〜」
優香がニヤニヤしながら、あたしの正面に座り、あたしの顔を覗き込む。
「捨てるとか以前に、そんな関係じゃ……」
綾に、助けを求める視線を送る。
けれど、綾も、
「いいじゃない!あんな男捨てちゃえよ〜」
と悪ノリしてくる。
「二人とも〜」
困りはするが、二人とのこんな時間は正直、楽しい。
恋愛初心者なんだから、一気に考えても仕方ない。
あたしは、窓の外を眺める。
白い雲が、ゆったりと浮かんでいるのが見えた。
女子会でした〜!
なかなか頼りになる二人ですよね。




