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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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41 付き合ってるの?

 ハッキリと気に入らなかった。

 莉子が兄貴と出掛けたことも、その日から兄貴のマグカップが新しいものに変わったことも。


 だから、莉子が用事で図書室へ出掛けた放課後、僕は教室で一人、自分の席で窓の外を眺めた。

 偶然のタイミングがあれば、一緒に帰れるんじゃないかと思った。

 偶然のタイミングが。


 変な期待と、期待をしてはいけないという自制の気持ちと。じっとしているにも関わらず、僕の中ではそんなものがせめぎ合っている。

 だから、ガラリ、とドアの音がしたとき、きっと情けない顔をしていたんじゃないかと思う。


 目が合ったのは、莉子だった。


「尚?」

 莉子の方も、少なからずビックリしたみたいだった。

「何か、用事?」

「いや。今から帰るところ」

 そんな風に、静かに返事をした。

「莉子は?」

 知っているくせに聞いた。

「あたしも」

 夕陽が眩しそうに、莉子が目を細める。


「じゃあ、一緒帰ろ?」

 なんでもない言葉だった。


 子供の頃は、当たり前の言葉だった。いつの間にか、この言葉で返ってくる笑顔が、嬉しくなっていた。

 今は……、今は、少し緊張して、ドキドキする言葉だ。返ってくるのが笑顔とは限らない言葉になった。

 けど、

「うん!」

 返ってくるのが笑顔なら、これほど嬉しいことはないだろ?




 隣を並んで歩く。

 日は長くなったようで、まだまだ青い空が続いている。


 夏の匂いのする太陽が、僕たちを照らす。

 莉子の気配が、腕のあたりでチラチラと動いている。


 ふとした沈黙の中で。

 通りすがりの子供たちの声も聞こえなくなって。

 流れていた車の影も見えなくなって。

 ただ、僕たち二人のことしか見えなくなった。


 そんな瞬間、

「あのさ、」

 僕は、つい口にしてしまっていた。

「兄貴と、付き合ってるの?」


 つい、そんなことを聞いてしまっていた。


 どんな返事でもよかった。もう、解放してほしかった。

 いや、嘘だ。

 もし、付き合ってるなら、僕は……どうなってしまうんだろう。

 そんな話聞きたくなくて、逃げ回っていたのは僕の方だ。


「え?」

 返ってきたのは、小さな声だった。


「見ちゃった……んだよね。土曜日、兄貴と出掛けたろ?」


「あ……」


 もうすでに、泣きたい気持ちでいっぱいだった。


「ぜ、」


 ぜ?


「全然、そんなのじゃないよ!?ただ、あたし誕生日だったから連れ出してくれただけで……!」


 莉子の慌てた顔。

 嘘をついている様には見えなかった。


「ほんと……に?」


 心臓が、ドキドキする。


「ほんとに!頼りになるお兄ちゃんだよ!」


 これだけで、こんなに嬉しいなんて。

 信じても、いいんだよな……?


 泣きたい気持ちだ。

 けど、こんなところで泣いたら、莉子だってきっとビックリしちゃうよな。


「そ……っか…………」


 もし、まだ僕が入り込む隙間があるっていうなら、この莉子の隣に、まだ僕は、いてもいいのかな。

さて、ここから二人の関係は変わってくるでしょうか。

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