39 デートしようよ(3)
僕は、帽子のツバを引き下げて、伊達メガネをぐっと持ち上げる。
こんなことをしても、どうにもならないことはわかっていた。
後をつけていったところで、それを阻止できる権利もなければ勇気もない。
けれど、今朝、兄貴が莉子と出かけて行ったのを見て、居ても立っても居られなくなってしまったのだ。
いつも通りと言えば、いつも通りだったのかもしれない。
けど、莉子がちょっとオシャレをした格好で、顔を赤らめて誰かと二人連れ立って歩いている姿を見ると、もうどうにかしたい気持ちでいっぱいになった。
このままついて行って、見たくない光景を目にする可能性だってあるのに。
……莉子と兄貴のキスシーンとか、トラウマものだろ……。
そんなことを思いながら、それでも後をつけて行かないわけにはいかなかったのだ。
電車の中の二人は、静かで、それでも嫌な空気が漂っているわけではないみたいだった。
黙っていても居心地のいい間柄……。
二人が二人きりで会う時間はかなり多かったはずだ。
きっと、僕よりも。
行き先は、どこかのイラストレーターの原画展だった。
もしかしたら、何か用事があって、仕方なく二人で出掛けた可能性だってあるんじゃないか、なんて希望を持っていたことに気づいてしまった。
そして、その希望は見事に打ち砕かれたのだ。
莉子は子供の頃から絵が好きだった。最近では、デザインの勉強もしているようで、よくそれ関係の本を読んでいる。
実際、学校の掲示板に貼り出すポスターのデザインもやったことがあった。
兄貴の方は、絵が好きなのかどうかわからない。
そもそも、兄貴が高校に入ったあたりからは、受験やら何やらで部屋に篭りがちになって。……アイツに趣味なんてあっただろうか。
けど、十中八九、莉子の好みに合わせた、ということだろう。
興味はないけれど、原画展の中に入る。
ここまで来ればもう意地と言ってもよかった。
莉子の好きそうな絵に囲まれて、茫然とする。
たくさんの人間の隙間に、莉子の姿を探した。
見つかったらヤバいくせに、立ち去る気持ちになれない。
二人が同じものを見て嬉しそうにする度に、痛くて、痛くて。
最後の土産物コーナーは素通りして、外でコッソリと莉子と兄貴を待った。
二人は、話題のカフェに入っていく。
二人で楽しそうに入っていく姿は、正直、付き合ってるカップル以外の何ものにも見えなかった。
夏の入り口のカフェテラス。
木漏れ日がさやさやと床に影を作る。
カラフルなジュース。二人の笑顔。
特に……兄貴。
兄貴って、あんな風に笑うやつだったか?
嬉しそうに話す姿は、相手が莉子だからに違いなくて。
兄貴も莉子のこと好きとか、そんな……そんなのって…………。
「何やってんだよ……僕は……」
苦しくなってその場を離れた。
それでも僕は、莉子を嫌いになる方法が、ずっとわからずにいるんだ。
尚人の方はずっと辛そうですね!がんばれ〜!




