38 デートしようよ(2)
電車の中は手持ち無沙汰で、窓の外をじっと眺めた。
隣には、拓真が立っている。
特に何を話すでもなく、気を遣われるわけでもない。
けれど、この関係のほうが気軽でいい。
言われ慣れていないせいで、か……、かわいい……とか、言われた時はどうしようかと思ったけど、それ以外は特になにもないので、ドキドキも収まってきた。
あれだけ落ち込んでたっていうのに、現金なものだな。
着いた先は、商業ビルの一角だった。
静かで落ち着いた空間。
遠くで、何か音楽が聴こえる。ううん、もしかしたら環境音かも。
広い壁に、数十点の原画が並ぶ。
風景……?
それはどれも、遠くを見渡す風景だった。
街中もあれば、ビル群、飛行場、海、山など、舞台は多岐にわたる。
ヨーロッパ風の街のあれば、どう見てもファンタジーなダンジョンの風景まで。
「すごい……」
そのどれもにコメントが付いていて、なかなか全てを見るのは時間がかかりそうだ。
「すごいだろ?」
拓真が、「ふふん」と笑う。
拓真は年上だけど。最初に会った時からずっと年上だけど、好きなものを見る時は同学年の男の子みたいだ。
あたしは、にっこりと笑顔を返した。
一つの絵の前に立つ。
それは、浜辺の風景だった。
一体どこにある海なんだろう。
本当に存在する風景かもわからないのに、その絵はあたしにそう思わせた。
空には星屑が煌めく。
まるであたしを包み込むみたいに。
こんな風に優しくされると、泣いてしまいそうだ。
ひたすらに涙を堪えた。
拓真はただずっと、あたしの隣に立っていた。
こんな風に優しくされると、泣いてしまいそうだ。
けど、泣いたところで、拓真なら見なかったことにしてくれるんだろう。
展示の最後で、楽しくお土産を買った。
拓真なんてマグカップやらボールペンやらタオルやら両手にいっぱい抱えて、図録に至っては三冊も買っていたから流石だと思う。
保管用、布教用、自分で使う用?
そしてすっかり忘れていたのだけれど、デートらしくその後はオシャレなカフェに入る。
フルーツが乗ったオシャレなジュースは、まさに絵面はデートといった感じだ。
目の前の拓真を見る。
原画展の感想を言い合う。
「今日、すごく綺麗だった」
「だろだろ?莉子なら気にいるんじゃないかと思ったんだ。絵の中の空気感がすごくてさ」
好きなものを話す拓真は、いつもより幾分か饒舌で、いつもより幾分か子供みたいだ。
けれど、ちょっとした合間の、ちょっとした沈黙の瞬間、ふと見せる横顔は、いつのまにこんなに大人になったんだろうと思わせる。
「で、今日のお金……」
財布を取り出すと、
「いらないよ」
と返ってきた。
「莉子、誕生日だったろ?」
「あ、覚えててくれたんだ」
嬉しくなる。と同時に、尚のことを思い出して、同時に心臓はぎゅっと悲しみを思い出してしまった。
泣きそうな顔をしてしまったんだと思う。
目の前にいる拓真は、ちょっと困った様な、ちょっと苦笑する様な顔を見せて、けれど何も言わずに、誤魔化す様にストローを口にしたあたしが落ち着くのをじっと待っていてくれたんだ。
二人のデートは落ち着いた雰囲気になるようです。




