37 デートしようよ(1)
家へ帰るまでの脇道のベンチで、座り込んでいた。
今日は、帰りたくない気分だった。
夕陽があたしのことを照らした。そばに立つ木に隠れるように、あたしはそこでじっとしていた。
誰にも見つからないように。
けど。
「莉子」
見つかってしまった。
ふと顔を挙げると、そこにいたのは拓真だった。
泣きそうな顔のあたしに、またあの時と同じように困った顔をしてみせる。
あの、あたしを抱きしめてくれたときと同じように。
じっと見る。
何か、話すつもりはなかった。かと言って、追い立てるつもりもない。
ただ、向かい合う時間があった。
お互いに顔を見る。
見つめるっていう色っぽい空気はなくて、そこでただ向かい合っている、というのが正しかった。
それなのに。
拓真は、その眉をひそめた困った顔のまま、あろうことかこう言ったのだ。
「デートしよう」
「え……?」
何を言われているのかわからないまま、あたしはそれに頷いた。
「うん、いいよ」
言葉通りの“デート”ではないと踏んで。
気晴らしがしたい時に、気晴らしを提供してくれるという人がいるのだから、断る理由なんてなかったんだ。
とはいえ。
自室のベッドに座り、じっと部屋を見渡す。
……“デート”って言われたからにはデートなわけで。
何を着ていけばいいんだろ。
実は、あたしは、彼氏がいたこともなければ、デートに誘われたこともない。……いわば、これが人生初のデートってわけである。
まあ、小学生の『リコ、あそぼー』ってのを抜きにすれば、だけど。
ちょっとオシャレしていった方がいいのかな。
気合い入れすぎて場違いだったりしたら……。
悩んだ末、とりあえず新しい服を着ていくことにした。
お出かけ用に買ってあった服。かわいい系のショートパンツだ。
そして土曜日の朝。
ちょっとドキドキしつつも、あたしは玄関のドアを開けた。
「ん」
ろくに挨拶もない、ローテンションな拓真が、そこに立っていた。
「うん」
緊張の末、あたしまでちょっとおかしな挨拶になる。
「えっと、電車に乗るんだよね?」
「ああ、そういえば、言ってなかったな。尊敬してるイラストレーターの原画展があってさ」
「そうなんだ」
ちょっとホッとする。
きっと、本当にデートらしい遊園地だの動物園だのなんだのに連れて行かれたら、どうしたらいいかわからなくなってしまうに違いないから。
「なんて人?」
「スズモトトモって人」
「へぇ……」
その頃には、緊張はほぐれつつあった。
行きたい場所があって、誘ってくれただけなんだ。
いつも通りのローテンション。気負うことなどない。
けれど、歩き出そうとした拓真は、何かに気づいた様に足を止めて、こちらを振り返った。
「あ、そうだ」
「え?」
拓真を見上げる。
いつもはそれほど気にならないが、拓真もそこそこ背が高い。尚ほどではないけど。
そして、拓真はあたしを見て、こう言ったんだ。
「今日の莉子、かわいいな」
そんなわけで、デートイベントです!




