36 「邪魔しないで」
結局、誕生日に尚に会うことはなかった。
心が、真っ白になったみたいだ。
あれだけ泣いたっていうのに、あまり晴々とした気分ではない。
ただ、誰にも見せられない顔になったっていうだけ。
土日を挟んだから、あたしの顔も、今日のところはとりあえず……マシ。
それは、引きこもる様に家にいた結果の、月曜日の朝だった。
尚とアンナちゃんに会うことがないように、いつものように早朝家を出る。
早朝の空気に触れれば、少しは気分も晴れるというものだろう。
けど、玄関のドアを開けた時、真っ先に飛び込んできたのはアンナちゃんの顔だった。
え?なんで?
思いながらも、そばを通り抜けて行こうとする。
けど、そこであたしに声をかけてきたのはアンナちゃんだった。
「おはよう、莉子ちゃん」
いつもの、明るい笑顔だ。
「おはよう」
なんだろう?珍しい。あたしに声をかけてくるなんて。
そのまま行こうとすると、また、声がかけられた。
「莉子ちゃん」
くるりと振り返る。
アンナちゃんは、ポニーテールを揺らして、青い空を背景にゆったりとした笑顔を見せていた。
まるで、今まで友達だったみたいに。それが、いつもの日常だったみたいに。
「…………どうかした?」
「ワタシ、話があるんだよね」
その瞬間、嫌な予感がした。
ろくに会話なんてしてこないこの子が、話があるっていったら、尚のこと以外にあり得ないから。
「何?」
けど、ここで後ろを向くつもりもなかった。
「莉子ちゃん、って、尚人とどういう関係なの?」
「どういう?」
どういうって言われると、答えはこれしか持ち合わせてなかった。
「ただ、隣に住んでるだけの関係だよ」
だってそうだった。
最近ずっと考えていたけど。
気軽に近づかせてもらえないあたしは、友達ですらない気がしていた。
だから、尚と何か繋がりがあるとするなら、それはただ、“隣に住んでいる”それだけだ。
「だったら、」
アンナちゃんは、キュルンとした瞳をこちらへ向ける。
「ワタシと尚人の邪魔、しないでほしいの」
「え……」
邪魔?
「尚人には、ワタシがいる。わかってるでしょう?尚人のホンメイはワタシ!なのに、莉子ちゃんはどうして……」
ポロリ、とアンナちゃんの頬を、一粒の涙がこぼれた。
どういうこと?やっぱり二人は付き合ってるってこと……?
「どうして……!たまたま隣に住んでるっていうだけで、尚人の気を引こうとするの……!」
アンナちゃんはもうすっかり泣いていた。
透明な涙は、朝日に煌めいた。とても純粋で、綺麗な涙だ。
「そんなこと……してな……」
けど、本当に、してないって言える?
アンナちゃんがずっと隣にいるのを知ってるのに、勝手に好きでいて、ずっと見ているのはあたしだ。
そんな視線を、空気を、感じているって言われたら、言い訳のしようもなかった。
「今まで……、付き合ってたわけでもなんでもないんでしょ?だったら、邪魔してるのはワタシじゃない。ワタシたちに関わらないで」
言い返すことが出来なかった。
アンナちゃんはそのまま、尚の家へ向かった。
あたしはただ、その後ろ姿を見送った。
珍しくアンナちゃんがいっぱい喋ってますね!




