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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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34 「おいで」(3)

 自室に入る。

 ドアを閉めた。


 暗い部屋の中で、辺りを見渡す。


 電気をつける気にはなれなかった。


 このままこの暗闇に、沈んでしまいたかった。


 落ち込んでるのはしょうがないけど。

 落ち込んでる自分が悲しかった。

 あたしのところには来てくれない人のことで。

 あたしじゃない人の誕生日を祝っている人のことで。


 あたし、尚を取られたような気分になっちゃってるんだ。

 あたしのものなんかじゃないのに。

 きっと、もともとあたしのものだったことなんてないのに。


 他人のものを欲しがる自分が悲しかった。


 床に座り込む。


 目の前は、薄ぼんやりとした暗闇で覆われていた。

 しんと静まり返ったデスクやベッド、本棚なんかが、この部屋の主を待ってじっとしている。


 尚からもらったキーホルダーや髪飾りは、デスクの引き出しの中に、大事にしまってある。

 借りっぱなしのゲームや貸す予定だった漫画が目に留まる。


 この部屋は、尚の思い出ばっかりだ。


 息をするのも辛くなってしまう。


 その時だった。


 パカパカと、窓の外が光った。

 拓真の合図だ。


「…………」


 カーテンをじっと見る。

 電気は消してあるから、いるのがわかるわけないのに。

 けど、それだけ何か重要な用事があるんじゃないか、なんて、カーテンをさっくりと開ける。


 するとそこには、いつも通りの拓真の顔があった。


 ガラッ。


 拓真の部屋の窓が開いたので、こちらの窓も開け、顔を出した。


 拓真の顔はいつも通りだった。

 いや、最近、おかしくなった拓真しか見ていなかったので、今日は久しぶりに見たローテンションの拓真と言っても差し支えなさそうだった。


「お前、今日誕生日だろ?昨日、本屋行ってきて……」


 と、ここまで言ったところで、拓真はあたしの様子を見るのに言葉を途切らせた。


「あ、誕生日……」

 何か受け答えしようと出した声は、思った以上に掠れて、声にならなくなっていた。

「今日……、友達が……っ」

 取り繕おうとしたけれど、上手くいかない。


 拓真は、少し眉を曇らせて、あたしの顔を眺めていた。


 目の前が潤む。

 泣くわけにいかない。

 こんなところで、泣くわけにいかないのに。


 それでも、止めたいときに涙は止まらず、拓真がじっと見ている前で、涙がぽろぽろとこぼれるのだった。


 沈黙が痛い。


 拓真を困らせてる。


「おいで」


 その声が耳に届いて、パッと顔を上げた。


「たく……まぁ……」


 その伸ばされた手に、縋りつくように手を重ねた。

 いつものように思いっきり飛んで、拓真の部屋へジャンプする。


 それは必然的に、拓真の腕の中へ飛び込んでいくジャンプだった。


 拓真の息を吐く音が、耳を掠めた。


 体温を感じることが出来るほどの距離だった。


 ポロポロと止まらない涙に気遣ってか、拓真はあたしをきゅっと抱きしめる。


 その温かさに、あたしの涙は、また溢れ出したんだ。

そんなわけで、拓真がお相手なのでした。

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