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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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32「おいで」(1)

 7月に入って、夏真っ盛りになった。


「じゃじゃーん」

 とある暑い日の朝、莉子の目の前にラッピングされた袋がぶら下げられた。

「へ?」

 見上げると、優香と綾だった。

 綾も、ラッピングされた袋を差し出してくる。

「ハッピーバースデー」


「あ、ありがとう」

 毎年のことだけれど、ちょっと照れる。


 そうなのだ。

 今日はあたしの17回目のバースデーなのだ。


「開けて開けて」

 優香に促されて、それぞれの袋を開ける。

 中から出てきたのは、薄いピンクのリップとリップグロスだ。


「うわぁ……!大人っぽいプレゼント……!」


「ふふふ〜ん」

「莉子に似合うと思うの」


「そ、そうかなぁ」

「えへへー」なんて笑ってみせる。


 クラスの女の子たちが、

「莉子!誕生日おめでとー!私たちからもあるから、お昼ここでね」

 と声をかけてくれる。


 誕生日。

 そう。

 今日はあたしの誕生日なのだ。


 誕生日の夕方はいつだって、尚があたしにプレゼントを渡してくれた。

 最初は、小学生3年生の時。おばさんからの美味しいクッキーをお使いで渡しに来ただけだった。

 次の年もそう。

 けど、その次の年から、様子は変わった。

 旅行で買って来た小さなキーホルダー。それは、尚があたしの為に選んでくれたものだった。

 次の年は、わざわざ買って来てくれたリボンの髪飾り。


 そんな風に尚は、毎年あたしに誕生日プレゼントをくれるようになったのだ。


 今年も……。


 今年も、期待していいだろうか。


 期待なんてしたくなくても、つい、尚のことを考えてしまう。




 そんな中で、相変わらず腕を組んで教室に入って来たのが尚とアンナちゃんだった。

「おはよー」

「おはようアンナちゃん」

 と、あの二人付近で声がする。

 あたしはというと、尚ともすっかり朝の挨拶すらなくなってしまっていた。


 この日は、尚の様子がいつもと違った。

 学校へ来るなり、教室の前に出てくる。


 ドキリとする。


 けど、その隣にアンナちゃんがいることで、流石にあたしとは関係ないか、って自分に言い聞かせた、その時だった。


「みんな聞いて」

 クラス中が、尚に注目した。


「今日の放課後、空いてる人いるかな」


 放課後……?


 まさか。まさかね。


 でも、今日って……。


「明後日、アンナの誕生日なんだ」


 え…………?


 あたしだけじゃない。

 あたしに声をかけてくれた女子たちが、サッと黙り込む。


 今、あたし、どんな顔をしてるだろう。


「お祝いに、みんなでカラオケでも行こうかって言ってるんだけど、どうかな」


 アンナちゃんの周りにいた無邪気な男子たちが、わーっ!と騒ぎ出す。

 そして、その場を取り繕うように女子たちも、笑顔を作った。


「うん、いいんじゃない?」

「誕生日なんだね、おめでとー」


 なんで今日?

 今日は木曜日で、明日だってあるのに。


 なんで?


 心臓がバクバクと鳴る。

「有り得ない……」

 小さく悪態をつく優香の声が聞こえた。


 尚、あたしのことなんて、もう忘れちゃった……?

 それとも、もう関係なくなっちゃったのかな。


 ねえ、尚。今日は、あたしの誕生日だよ。

誕生日エピソード!なのにちょっと不穏な気配が……。

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