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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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31 夕食はファミレスで(2)

 席に座ると、目の前の莉子と目が合った。

 二人でいるところを邪魔したと思われたんじゃないだろうか。

 けど、邪魔しない選択肢なんてなかった。


「珍しいね、二人でいるなんて」

 つい、様子を伺う。

 ここで“付き合ってる”なんて言われたら、ショックなくせに。


「ああ。莉子も夕食、悩んでるみたいだったから」

 兄貴の落ち着いた声。


 何もかもが気に入らない。

 食事の話を二人で話したらしいことも、兄貴が当たり前のように莉子の隣に座ったことも、二人で食事をしようとしたことも。


 アンナは大きなパフェに目をやり、にっこりと笑顔を見せると、何も言わずにただオムライスとサラダを頼んだ。

『人見知り』だとあれほど公言するくらいだ。兄貴も、アンナを気遣ったのかもしれない。


 アンナが僕の脇腹を肘でつつく。

 コソコソと話しかけてくる。

「尚人は、何を食べるの?ワタシ、美味しそうだったからオムライスにしちゃった」

「うふふ」と嬉しそうに笑う。


「あ、あたし、先にいただくね」

 突然、声を出した莉子が宣言するようにそう言った。

「うん。アイス溶けちゃうもんな」

 僕が答える。


 莉子のスプーンがアイスを掬うと、なんの前兆も無しに兄貴の口元に持っていかれる。

 何の戸惑いも無しに、兄貴がそのスプーンからアイスを咥えた。


 は……!?


 どうしてそうなった……!?


 アンナが、

「わぁお!仲良し!」

 なんて、囃し立てている。


「あっ!」

 莉子が動揺した声を上げる。

「ご、ごめんっ!間違えた!!」


 間違えた???

 間違えたにしては、すんなり口に入っていったが……。


「味見のつもりで……。自分でどうぞ」

 と莉子はスプーンを兄貴に渡す。


 は???


 それはいいのか……???


「なんで……味見って……。っていうか、夕食にパフェって……」

 混乱して、つい口に出してしまう。


「あ、このパフェ、拓真の奢りだから」


「え???なんで兄貴がパフェ……」


 兄貴は特別パフェなんかが好きなわけじゃなかったはずだ。

 じゃあなんで……。


 けど、莉子は、

「ちょっとね」

 なんて笑って誤魔化して、最後まで理由を話すことはなかった。


 結局、兄貴が口にしたスプーンが、莉子の口に入っていくのを、恨めしげに見守るしか僕に出来ることはなかった。


 和風ハンバーグは、何の味もしなかった。

 ただ、機械的に口に運ぶことで、時間を消費するだけだ。




 帰りは、相変わらずアンナが僕の腕にひっついていた。

 正直、もう暑い時期だし、日本に来て3ヶ月、あんまりひっついてくるのもそろそろ辞めてほしかった。

 不安なことなんて、もう無いだろうに。

 けど、父親の手前、あまり強く出ることもままならない。


 後ろで、兄貴と莉子が、並んで歩く気配がした。

 会話は少なく、時々小さくやりとりするくらいだった。けどその度に、僕は必死で耳を澄ませた。

 少し離れているせいで、会話はうまく聞こえない。

 二人は、どんな会話をするんだろうか。

 莉子のクスクスという笑い声が聞こえる度に、心臓がズキズキと痛んだ。

思ったより穏やかな食事風景だったんじゃないでしょうか。

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