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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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3 見せつけられるとツラ過ぎる(1)

「どしたの?無じゃん」

 言われて気づく。

 ぼんやりと歩くあたしの口の中に何か入っている。

 一瞬、まだお昼ご飯を食べている途中だったかな、なんて思ったけど、ここは学校の廊下だ。

 隣の優香(ゆうか)の手を見る限りこれは……、モグモグ……、ポップコーン。

 優香は隣で、小さな袋に入ったポップコーンを食べていた。売店で売っているのを見たことがある。


「せっかくみんな同じクラスだったのに」

「あ、うん。良かったよね」


 高2になって初めての登校。

 親友の二人、優香と(あや)とは同じクラスだった。……ついでに、尚と、今日の朝、尚の腕にひっついていたあの“アンナちゃん”も。


 教室の席は出席番号順。

 “き”で始まる尚と、“い”で始まるアンナちゃんは、ナナメに席が近い。


 あの、ハーフだろう容姿で転校生ということもあって、めちゃくちゃに注目されているところに、アンナちゃんは暇があれば尚のところに飛んでいくものだから、その度に尚まで注目されていた。


 “ふ”で始まるあたしは、それを遠くの席から眺めることしか出来ない。

 気にしたいわけじゃない。

 気にしたいなんて思ってないのに、好きだと気づいてしまった日に、この仕打ちはかなり……キツい。


「何かあったらちゃんと言うのよ?」

 と、心配性の綾があたしの顔を覗き込む。


「ありがと」

 と、あたしは精一杯の笑顔を見せた。

「なんでもないんだ」




 けど結局、『なんでもない』がなんでもなくないのが二人にバレてしまうのは、あっという間だった。


「アンナちゃんのお父さん社長なんだ?」

「すげぇじゃん」


 3人が教室に入ると、昼休みであってもアンナちゃんは生徒たちに囲まれていた。


「けど、日本の会社なんでしょ?」

「なんでアメリカに住んでたの?」


 流石に質問攻めにされ過ぎたのか、アンナちゃんは困った顔を見せる。

「えっと……」

 その光景に辟易したのか、綾が眼鏡をクイッと持ち上げた。


 そこでやおら立ち上がったのが、尚だった。

「あのさ」

 尚の声に、ドキリとする。

「ちょっとアンナ借りるね」


 そう言って、尚はアンナに目配せすると、教室から連れ立って出て行ったのだった。


 え…………。


 アンナちゃんが困っていそうだったから、連れ出したのだろうか。尚ならそれはあり得る。

 けど。

 名前……。


『アンナ』


 呼び捨てだった。


 この注目されている中で呼び捨てで連れ出すことは、噂になるには十分過ぎるほどだった。質問攻めになっているアンナちゃんを助け出したようにしか見えなかったから、尚更だ。


「な……!」

「え、桐生!?何〜?」

「アイツらそういう関係?」

「じゃん?朝、腕くんでるの見たって」

「マジかよ……」


 突っ立ったまま、そんな二人が教室から出て行くのを見ることしか出来なかったあたしは、相当おかしな顔をしていたらしい。

「あ、」

 と、綾が声をあげた。

「忘れ物しちゃった!」

 と、手をポンと叩く。

「二人とも、ついて来てくれる?」

「うん、いいよぉ」

 あたしの返事を待たずに、優香があたしの手を引いた。


 二人に連れられて、小走りで、あたしは尚とアンナちゃんにハッキリと背を向けたんだ。

そして話が動き出す。

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