28 入稿宣言(1)
ある日、拓真の部屋に転がり込むと、拓真はあたしのことを正座で待ち構えていた。それはもう、戦国時代の武将かって感じに。
「拓真?」
拓真は、やる気のない目で、ふ〜っと視線を周りに流す。
……いつもの拓真だな。
「俺さ、」
「うん?」
いつも通りの拓真の声は、徹夜でテンションが上がっている時よりずっとずっと低い。
「夏コミ、出るんだよね」
「うん?」
夏コミに出る、というからには、同人誌を作る、ということだろう。
とはいえ、拓真は今までに2回、同人誌を作ったことがあるし、イベントにも出たことがある。
今更何を?と思うわけだ。
「も、もしかしてコスプレで参加するとかじゃないよね?」
「あ〜……それはない」
「だよね」
「問題があるとすれば……。真っ白なんだよね、原稿」
ん?
壁のカレンダーを見る。
6月も後半。
夏コミは8月。とはいえ、漫画数十ページにカラーの表紙をつけて……。
「間に合うの?」
尋ねると、拓真は「へへっ」と恥ずかしそうに笑った。
それからあたしは、拓真の部屋に自分のノートパソコンを持ち込んで、アシスタントを気取ってみせたわけである。
やることは、といえば、効果をつけることと、文字を入れること。
ベタ塗りにしてもトーン貼りにしても、クリック一つで出来ちゃうのがデジタルのいいところだけれど、大きさや位置を調節していると思った以上に時間をくってしまうのだ。
その時間短縮に貢献しているのがあたしってわけ。
あらかじめ描かれていた落書きのようなネームを見ながら、もうあたしのセンスで効果をつけていく。
あたしがその作業を請け負えば、拓真はただペンで線を描いていけばいいって寸法だ。
その後、カラーの原稿を描くことまで考えると、期限は1週間足らずだった。
残り、3日。
思ったよりもいいペース。
ただ……。
「よっしゃ!莉子!27ページめ!」
拓真がサムズアップでウィンクしてくる。
……ずいぶんお疲れのようだ。
翌日あたしは、決意した。
桐生家の玄関から入る決意だ。
あたしが拓真を訪ねていくの、おかしくないかな?
拓真とも幼なじみではあるのだけど、歳が離れている分、あまり一緒には遊んで来なかった。同じ歳の尚がいたから、尚と一緒に走り回ることが多かったのだ。
窓が隣同士だから、話すキッカケがあった。それに尽きる。
拓真は、漫画を描いていることを家の人にはカミングアウトしていない。尚にもだ。
ということは、あたしのカバー力が試されるってことで。
ドキドキしながらインターホンを押す。
ピンポーンなんて聞き慣れた音が響く。
ガチャリ。
出てきたのは尚だった。
「あ、こんにちは」
最近、話さなくなったから緊張するなぁ。
「うん。どした?」
「拓真と約束してるんだけど」
「ふぅん?」
期待してたわけじゃないけど……、尚、なんかちょっと冷たい、な。
「あがれば?」
「うん」
今回の拓真くんの漫画は、一次創作のオリジナルなファンタジーものです。




