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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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24 穏やかな日(1)

 あたしってば、何を期待してたんだろう。


 家の前にいる二人を見た時、朝、前髪の一本にも気を遣って鏡の前にいた自分が、滑稽で恥ずかしいものに思えた。


 朝早い登校に付き合ってくれるというから、てっきり尚と二人きりだって思ってしまっていたから。


 けど、そんなことはなかった。

 尚は、困ったような顔をして、

「おはよう」

 って言ってきた。

「うん、おはよう」

 そこへいつも通り、アンナちゃんが尚の腕にくっついて、二人、楽しそうに学校へ向かう。


 そうだよね、きっとこの二人にとっては、二人でいることが自然なことなんだ。


 尚が、珍しく後ろを振り返ったので、ビクリとする。

「足、大変だったら言って」

 なんて言うものだから。

「うん、ありがと」

 って、へらっと笑っておいた。


 アンナちゃんとは、相変わらず挨拶程度の会話もなかった。

 あたしが視線を逸らしているからか、それともアンナちゃんがあたしを避けているのか、どっちかわからなかったけれど。


 後ろから、いつもみたいに二人の後ろ姿を眺めた。


 期待してしまった自分が、馬鹿みたいだ。




 だから、それは必然だったのだけど、あたしは翌日早起きして、一人で学校へ向かった。

 尚の家のポストに、『美術室に用があるから、先に行くね』なんてメモを挟んでおく。


 一人で向かう学校は、いっそ清々しかった。

 あのバカップルを眺めて学校に行かなくてもいいっていうだけで、かなり心の平穏が保たれているようだった。


 確かに、尚を取られるのは嫌だ。悲しい。

 けど、あたしがいることでどうにかなるかって言ったら、どうにもならない、と思う。

 尚とアンナちゃんがカレカノな関係なら、尚更あたしはお邪魔虫ってものだろう。


 横恋慕するつもりはなかった。

 横恋慕するつもりがないなら。


 この方が正解だって、青い空を見ながら思う。


 半ば、走りながら学校へ向かった。

 足はまだ少し痛いから、走れているのかちょっと疑問だったけど。

 尚も、アンナちゃんも、自分の気持ちも、全部全部、振り払いたい気持ちでいっぱいだ。




「はよ」

 ちょっと機嫌悪そうな尚をやり過ごしたら、その日はもうあの二人と関わることはなかった。

 授業中、二人の姿が視界に入ることはあるけど、毎回見なかったことにする。そう、毎回。


 空は青かった。

 雲が流れていた。


 たまには絵でも描こうかって、放課後の美術室に思いを馳せた。


 お昼は、優香と綾のところへ、転がるように抱きついていった。

 誰にも会わないように、売店で買ったパンを、美術室で食べた。


 放課後は、いつも通り美術室で過ごしたから、あの二人がどうしたのか知ることさえなかった。


 穏やかな日だった。


 あたしは、美術室に置いてある丸椅子の上で膝を抱えた。


 寂しい日だった。

 それでも、心は凪いでいた。

そのまま幸せになれるわけないんだよ!

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