21 体育祭(6)
歓声が耳の奥で響く。
チーム内……どころか、学校中がアンナに向かって応援の声をあげていた。
それはそうだろう。
大注目の転校生が、みんなの視線を浴びながら走っているのだ。それも、“怪我をしたクラスメイト”を助けるために。
みんなが応援し、味方につくのは必然だった。
歓声はゴールへ向かうとともに大きくなり、学校中がアンナちゃんの勝利を祝った。
アンナちゃんは、汗を袖で拭うと、その足であたしのところへやって来た。
アンナちゃんのへの視線の中に、あたしが巻き込まれた。
「やったよ!」
アンナちゃんは、あたしに抱きつくようにして、満面の笑顔を見せた。
それは、アンナちゃんが、学校中を味方につけた瞬間だった。
こんな時に、初めてあたしに向ける笑顔。
嬉しくないなんて言えない。
嬉しくないなんて、言っちゃいけない。
打ち上げは、クラスみんなでカラオケだ。
といっても、大部屋で今日のことを話す方がみんな忙しく、歌っているのは一部だけ。
オレンジジュースを一口飲んだところで、今日の話題の中心である、アンナちゃんの話に気圧される。
「すげーよなぁ」
「ほんと、アンナちゃんいてくれてよかったよ〜」
なんて声が聞こえる。
聞こえてしまう。
それは裏で、『莉子じゃなくてよかった』なんていう意味が隠れていたりもするわけで。
女の子たちの明るい歌声を聴いているフリをしてやり過ごす。
そこで、
「でも、アンナちゃんにはもう桐生がいるからな〜」
という男子の会話が聞こえて来た。
ふと見ると、相変わらずアンナちゃんは、尚の隣に陣取っている。そこにいるのが当たり前みたいに。
女の子たちのお誘いも、「あ、ワタシちょっと……」と尚の方をチラリと見るものだから、みんな納得して戻って行く。
尚とアンナちゃんがいくつか言葉を交わして、アンナちゃんが少し笑う。
虚無の味がするオレンジジュースが喉を通っていく。
ボスッ。
両側に座ったのは、優香と綾だった。
「莉子ったら、スゴいのを相手にしてるね」
言いながら、優香が莉子の口にポテトチップスを運ぶ。
「スゴいの、って?」
「あの、怖い子」
と言われて、それがアンナちゃんのことだと気づく。
「相手になりに行ってるわけじゃないけど」
あたしは、ただそれだけを言う。
優香の持ったオレンジジュースの氷が、カラリンと音を立てた。
「まともに相手してあげる必要もないしね」
そう言った優香の唇は、グロスがキレイに塗り上げられ、ストローから離れる時にふっと視線を奪っていく。
「大丈夫だから、自信持って」
綾の言葉が、何に対してなのか少しだけ悩む。
ただ、アンナちゃんに対する劣等感だとか、何かが見透かされてるんだろう。……顔には出したくなかったのに。
「ま、負ける気はしない」
と堂々と言い放ったのは優香だ。
そして、がばっと立ち上がる。
「ほら、行こ!」
とマイクを押し付けてきた。
聞こえてくるのは、明るいアイドルソング。
「む〜〜〜〜」
二人に連れられ、マイクを握る。
「おぉ〜!」
と歓声が上がる中、三人で踊りながら歌う歌にハッピーを感じて、あたしはやっと笑うことができたんだ。
今作の女子たちはアイドルソングが歌えます。




