20 体育祭(5)
「先輩!」
太鼓を持っていた後輩たちが、駆け寄って来る。
あたしを待っていたのか、その後ろから駆けてきたのは拓真だ。
「大丈夫大丈夫!ちょっと捻っただけだから!」
なんて明るく笑って、あたしは手を振る。
「俺が保健室連れてくから」
と、拓真があたしをお姫様抱っこしたので、みんな少し驚きながらも、
「よ、よろしくお願いします!」
と走って行ってしまった。
ひゃああああああ。
「た、拓真っ!あ、あたしなら大丈夫だから!!」
突然のお姫様抱っこ。
突然、拓馬の横顔が近くて……。
拓真はあたしを抱えて2、3歩歩くと、
「お、おっ、とっ、ととと」
と、しゃがみ込んでしまった。
「拓真……?」
「重い。莉子ちゃん、重い」
「たくまぁ……」
仕方なく、おんぶで保健室へと連れて行ってもらう。
足の湿布。
痛々しくはない。もう歩けなくはない。
けど。
クラスの席へ戻ったあたしは、頭を項垂れるしかなかった。
「足、どうした?」
と、尚が駆け寄って来てくれる。
その後ろに、アンナちゃんが控えているのが見えた。心配そうな顔。
それをきっかけに、ザワザワとみんなが周りを囲んだ。
「リレー、もしかして走れない?」
「まじかぁ……」
みんなに非難の声は含まれてない。
けど、落胆させてしまった。あたしが。
「ごめん、みんな」
「莉子悪くないじゃん」
みんなそう口々に言ってくれるけど、そんなことでさえ、心が苦しかった。
拓真が、少し離れた所から、困った顔でこちらの様子を窺っているのが見えた。
「代役立てよう!」
周りが声を上げる。
動き出す。
「誰か、今から空いてる人で、リレー出られる人いない!?」
足はそれほど痛くない。それよりも、ただ心が痛かった。
騒がしい空気の中で、ひとりぼっちだった。
肩に手を置かれ、ビクリとする。
驚いて顔をパッと上げると、まだそこにいた尚だった。
情けなさもあるけれど、その手の温かさはわかる。
そこで声を上げたのは、アンナちゃんだった。
「ワタシ、出てもいいよ!」
それは、厚意だったに違いなかった。
こんなギリギリのところで、練習もなしで、リレーを走ろうとする生徒なんて他にいなかった。
それは、勇気を出した声に違いなかった。
「出来るか、わかんないけど……っ」
あたしの目の前で、綺麗なポニーテールが揺れた。
「ワタシ……っ!莉子ちゃんの代わりに走ろうと思うんだけど……、いいかなぁっ!?」
ぐっと力の籠った手を、祈るように胸の前に握って、あたしに切実な目を向けてくる。
これが、厚意じゃなかったらなんだっていうんだ。
それなのに。
あたしの心は余計にぐちゃぐちゃだった。
こうして助けてくれるのが、アンナちゃんだってことだけでもうどうしていいかわからないのに、その瞳が、その手が、どんどんあたしを蝕んでいくんだ。
けど、ここではこれしかあたしには言うことはできない。
「ありがとう、アンナちゃん」
まあ、アンナちゃんとは仲良くなれそうにはないですね。




