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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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2 これは僕のくだらない初恋の話

 隣に住んでる幼なじみ。

 男子と女子。

 同じ年齢。

 同じ学校。


 そこまで条件が揃っていれば、窓を開ければその子の部屋、なんてラブコメちっくな事態になりそうなものだけれど。


 ガラリ。


 僕が窓を開けたそこには、ただ隣の家の高級そうな茶色い壁があるばかりで。


 カラリ。


 あ、莉子。


 莉子の部屋の前にあるのは、僕の部屋の隣の部屋だ。

 僕は、家と家の間を覗くように、そっと様子を窺う。


 何やってんだ?アイツ。


 莉子の、肩までの柔らかい髪が揺れる。

 くるりとしたリスみたいな瞳が小さく瞬きをする。


 目が逸らせない。

 目を、逸らしたくない。


「莉子」


 その時、隣の部屋から莉子の名前が呼ばれて、ドキリとして、僕は部屋に引っ込んだ。


 兄貴、いたんだ。


 そう。

 隣の部屋は、兄貴の部屋だった。


 莉子の部屋の窓を開けると、そこにあるのは僕の兄貴の部屋なんだ。


 そ、だよな。

 話くらいするよな。


 そうは思っても、なんであっちが僕の部屋じゃないんだって、モヤついたりもして。


拓真(たくま)

 莉子の兄貴を呼ぶ声が聞こえる。

 耳を澄ますことは止められなかった。

 あの二人、どんな話すんだろ。


「よっ」

 …………え?


 莉子の声が聞こえて、フリーズする。

 カッ、カツン、と何かがぶつかる音がして、僕は嫌な予感を止めることが出来なくなった。


 そっと覗く。

 そこには、案の定、窓から窓へ渡る莉子の姿が見えた。

 え?


 伸ばした兄貴の腕が見えて、莉子の上半身が兄貴の部屋に引きずり込まれる。


 なんで。


 薄い胸元の開いたTシャツに、ミニスカートなんていう格好で、莉子が男の部屋の窓に吸い込まれて行く。


 なんで。


 心臓がバクバクする。


 なんで。


 どうしても無視は出来なくて、僕は、音を立てずに部屋を出て、兄貴の部屋の前でうずくまると、聞き耳を立てた。


 不思議と部屋の中からは、声はしなかった。

 莉子、いる、よな?

 不思議なくらい音のしない部屋。けど、人の気配はある部屋。


「ふふっ」


 部屋の中から、突然、莉子の小さな笑い声が聞こえて、頭の中が真っ白になる。


 それからも、時々、莉子の笑い声が聞こえて。僕は、それをどう捉えればいいのかわからなくなった。

 聞きたくないのに、足が動かない。


「うん、すごく良かったよ」

 唐突に莉子の声がして、僕は飛び上がるように自分の部屋へ戻った。


 何してたんだよ。何してたんだよ。


 その頃、中学に上がったばかりの僕は、思春期特有の想像力のようなものを自動的に働かせて、頭の中をその想像でパンパンにすることしか出来なくなっていた。


 兄貴の声なんてしなかった。

 莉子だけが笑う状況ってなんだよ。

 じゃなかったら、兄貴が囁いてた?

 それこそ……、なんでそんな密室で、近づいて…………。


 莉子の声を思い出し、嫉妬と嫌悪感でいっぱいになる。

 僕はもう、部屋でうずくまることしか出来なかった。

そんな二人の拗れた初恋のお話です。

どうぞ見守ってくださいな〜。

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