19 体育祭(4)
何事にも、アクシデントはつきものだ。
「パン食い競争のパン足りません!」
なんてこともままあることだ。
実際、誰かが持っていってしまったのだろう。パン食い競争に使うはずのパンは、5つほど足りなかった。
「購買に多めに注文したのに〜」
とはいえ、足りないものは仕方がない。
「私、ちょっと購買に聞いてきます!」
「わかった。誰かこの辺りのパン屋、検索して」
「最悪、コンビニのパンを詰め替えるしか……」
なんていう方向で会話が進む。
3年生のスマホが鳴り、購買に行った子から、「お団子しか余ってないそうです!」と報告が入った。
全員で、吊るしたお団子に飛び跳ねる生徒を想像したけれど、串の危険性からやめておくことにした。
「あたし、ちょっとパン屋まで走って行ってきます」
あたしがそう言うと、3年生は力強い顔で頷く。
「よろしくね、莉子ちゃん」
急いで駆け出す。
後ろからは、3年生の、
「あなたはパン屋に連絡して。予約しておいて!」
という声が聞こえて、心の中で感謝した。
とにかくあたしは走ればいい。
パン屋なら、正門から500メートルといったところ。
門を出るところで、
「莉子!」
と声を掛けてきたのは、拓真だった。
「パン屋に行かないといけなくて」
そう告げると、拓真の顔は途端に真剣になる。
理解したという表情で、
「俺、今日チャリだから」
と、自転車の鍵を取り出した。
「頼りになる〜」
自転車に乗ると、拓真が右手を上げた。
「え……」
「いってこい!」
「え……、ああ、うん」
元々、拓真は間違ってもこんなことを言う人間じゃない。
その謎テンションのハイタッチを受け取って、あたしは自転車にまたがった。
高い……、けど、乗れないことは、ないか。
あたしはパン屋へと急ぐ。
パン屋へ入ると、もうパンは袋に入れられ、店員さんが待ち構えていた。
ソワソワしながらパンを確認すると、店員さんがソワソワしながらお会計を済ませてくれた。
「先輩!」
息も絶え絶えに、パンをパン食い競争担当に受け渡す。
「ありがとう莉子ちゃ〜ん!」
「お金、後で払うから」なんてやり取りをしながら、あたしは息を整える。
あたしはその時、非常に疲れていた。
非常に疲れていたのだ。
「あっ」
と、近くで小さな叫び声が上がった。
そちらを向くと、応援合戦に使う大太鼓が、運ばれて行くところだった。
運ばれて行くはずの大太鼓は、誰かがつまずいた結果、そこからゴロゴロと転がったのだ。
受け止めようと、両手を伸ばした。
それは、後で考えれば間違いだったとわかるけど、その時は、誰も怪我なんてしないように行動することだけが頭の中にあったのだ。
ドン、と受け止めると、思ったよりも衝撃は大きかった。
太鼓はなんとか止められたものの、あたしの足は足元の小さな段差に蹴つまずいた。
「あ、痛っ」
そうなってしまえばもう、手遅れだったのだ。
床に座り込み、足首を手でさする。
これは、まずいことになったって、その瞬間にわかった。
ほのぼのだけで終わるわけないですよね!




