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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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18 体育祭(3)

 尚に手を取られたことで、まさか本当に……なんてちょっと期待したわけだけど。

 尚のケロっとした顔と、中川君のやる気十分な顔を見て、そんなことはないなと思い直した。


 ここで手を取るくらいなんだから、ちょっとは照れたりしてほしいくらいで。


「で、あたしはどっちについていけばいいの?」


「俺でしょ」

 と、中川君が短髪のぐりぐりした頭を偉そうにそらす。

 尚も負けじと、

「僕の方が先だったから」

 と、中川君に視線を向けた。


 周りがどよめく。

 これはもう、そういう話に飢えている高校生たちにとって、一人の女子を取り合う男子二人の図にしか見えないわけで。


 うわぁ……。注目されてる……。


 視界の中に、アンナちゃんの姿も見えて、なんだか気まずい気持ちになる。


「じゃあ、あたしが二人と一緒にいけばいいんでしょ」

 勢いよく二人の手を握ると、ゴールへと駆け出した。


 ちょっと不服そうな尚と、めちゃくちゃ笑顔の中川君との間で、二人を引っ張って行く。

 まあ、二人の背が高いせいで、三人仲良く、というよりは、捕まえられた宇宙人みたいな状態だったんだけど。


 ゴールまで走って行く間ずっと、そういう色恋沙汰が好きな女子たちが、キャァキャァと騒ぐ声が聞こえた。


 ちょっと恥ずかしいんだけど……!


 うぅぅぅ〜……。


 ちょっとしたいざこざがあった割には、かなりいい順位。


「さて、二人のお題は!?どちらが本命なのでしょうか!」

 放送部もノリノリで煽る。


「えーと、中川君の方が『親友』」


「え」

 思った以上にまともなお題で、ちょっと照れる。

「あたしのこと親友って思ってくれてたの……!」


 感動しかけたあたしに、中川君はこう言った。

「いや、親友は尚人なんだけど、尚人が莉子のとこ走って行っちゃったからさぁ、ついついて来ちゃって。こっちも友達ではあるし、まあいっかって」


 む?

 尚の代わり……?


「感動しかけたあたしの気持ちを返してよ〜」

 頭突きでもかましてやろうかと思いかけたその時、また放送部の声が響いた。

「さて、もう一人、桐生君のお題は……『赤いリボン』!」


 ん?


 ん?って思ってしまう。

 キャァキャァ言っていた女子も、人ですらないお題に、一瞬しんと静まり返る。


「これ」

 ツンツンと尚があたしの頭の上を指す。

 そこには、確かにリボン結びにしたはちまきが乗っている。


「これ?」


 流石にあたしも、ここで『あたしのこと連れて走りたかっただけなんじゃないの〜!?』なんて思えるポジティブ思考は持ち合わせがない。


 眉を寄せるあたしに、尚は、

「これ、解くとリボンじゃなくなっちゃうでしょ」

 なんて言ってのける。

 その言葉の反応したのは、あたしじゃなくて観客の方だった。「キャー!」なんていう女子たちの声。


「そうだけど」


「仲良し三人組、クリアーです!」

 そんな放送に従って、あたしたちはまた仲良く、おてて繋いで退場したのだった。

どんなお題でも莉子を連れて行きそうな尚なのでした。

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