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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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10 公園バスケ(1)

『財布忘れた』なんていうメッセージが拓真のスマホに入ったのは、まだ拓真が朝食を食べている最中だった。らしい。


 キィ、という音を立ててお隣の家の門から出て来たのは、拓真だった。


「うわっ、びっくり」


「あ、莉子」

 と名前を呼ばれて、きょとんと拓真を見上げる。

 拓真は、漫画を描いていて寝たのが深夜だったことなんてわからないくらい、外で見ると爽やかなモテオーラを放っていた。

「どっか行くとこ?」

 めちゃくちゃ笑顔だった。

 一見爽やかなんだけど、これは、寝不足でちょっとメンタルがおかしくなった時の顔だ。


「うん。今日は一人で買い物でも行こうかと」

 まあ、欲しいものを買うついでに雑貨屋でも見ようかと思っただけで、特にこれといって用事があるわけではない。むしろ、優香と綾を誘ったらお断りされて傷心なのだ。


「じゃあ、ついでにさ、これ、尚人に届けてくれない?」

 なんて渡されたのは、尚の黒い財布だった。

「財布?」

「これないと、尚人が昼食抜きになっちゃうからさ」

「ふぅん」

 なんて言いつつ、ちょっと嬉しかったりする。


「俺には朝の太陽は眩しくて」

 なんて言いながら、拓真は流し目になる。

「あはは。夜の住人だもんね」

「そうそう。いかがわしくないやつな」


「まあ、いいけど」

「ありがと。いつもの所にいると思うから」




 いつもの所。

 それは、徒歩10分程度で行ける駅の近くにある公園だ。

 ちょっと豪華に舗装されたその公園には、バスケットゴールが設置されている。

 尚は、その公園で、放課後友達とバスケをしていることが多かった。

 部活でやる気もなく、遊びの一環だと本人は言っているが、かなり本格的にやっており、近くのチームと試合をすることもあると聞いている。


 公園に近づく度、バンバンバンバン、とボールを地面に打ち付ける音が聞こえる。

 アンナちゃんがいたらどうしよう、なんて思いながら、公園を覗く。


 と、丁度尚が、バスケットゴールにボールを押し込んだところだった。

 見たところ3on3。

 同じ高校生のような男の子たちとばかり、大騒ぎしながら走り回っている。

 アンナちゃん……はいない、か。

 つい、ホッとしてしまう。


 ……ちょっと犬っぽいと思ってたけど、ああして走っていると本当に犬だなぁ。


 かわいくてかっこいい。

 太陽の光が似合う。


 きっと尚には尚の世界があるからいつもは出来るだけここには近づかないようにしているけど、いつだって見ていていいと言われたら、きっといつまでだって眺めていられる。


 公園の入口でぼんやり見ていると、尚があたしに気づいて小走りで走って来た。


「どした?」


 う……っ。かわいいかよぉ……。


 走った後の汗と、蒸気した頬。

 あまりにもかっこよくて、目を逸らしたくなる。


 それも、なんか覆い被さるくらいに近い。

 近い近い近い近い……!


「え、えとね、これ」

「あ、財布」

「拓真に託されて」

「ふ〜ん……」


 そこで公園の奥から、声がかかった。

「莉子じゃん?」


 呼ばれてそちらを見ようとする。

「……尚、見えないんだけど」


「え?」

 尚がすっとんきょうな声を出す。

 そのパーカーの肩のあたりしか見えないんだけど?


「今、あたし呼ばれた気がしたんだけど」


「そうだった?」


 尚がちょっとふざけながら、いつもの犬みたいな顔で笑った。

次も引き続き公園でバスケです。

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