Lv7・生意気魔女(?)の勘違い
拝啓 母上様と父上様
良い妻ではなく良い夫になってしまうのではないか、と不安になっている日向朱莉です。
説教された日から数日間ずっと、夢の中でアリスちゃんに説教され続けました。
どうしてアリスちゃんと私を置いて昼食を食べにいったんですか、魔王様、と聞いたら
「アリスの邪魔をするのは可哀想だが、それに付き合わされるエミリオとササキも可哀想だろう?」
だ、そうです。……私は可哀想じゃないんですか、魔王様。
しょんぼりする私を慰めてくれるのはクラウスさんです。
「未来の夫として当然です」
だ、そうです。……あの、私貴方と結婚することに了承していないんですけど。
まあ、それはともかくとして。突然ですが、母上様、父上様。
……縄抜けの方法を、教えてください。
◇ ◇ ◇
今、私は縄で縛られて、どこか知らない部屋にいます。
……暇だからって、こんな広い城を探検しようとしたのが間違いでした。
探検中に、私は真っ黒な扉を見つけたのです。
なんとなーく、邪悪な感じがしましたが、好奇心には勝てず扉を開けました。
すると、あらビックリ!
いかにも『ヒィーッヒッヒ!!』とどす黒い液体の入った鍋を掻き混ぜる魔女がいそうな雰囲気の内装でした。
これはやばい、と思って急いで扉を閉めようとすると……後ろからゴツリ。
気づいたら、今の状態になってしまいました。
……っていうか、魔女のくせに殴るとはなんてやつだ!
魔女なら正々堂々魔法を使え!見てみたい!
……いやいや、そういう場合ではなくて。
「……は、早くここから脱出しないと!」
煮られたり、焼かれたり、人体実験とかさせられたりなんて絶対に嫌だっ!!
どうにかしないと!と思って腰に縛られている縄の結び目を解こうと試みる。
か、固い……これは無理だ!
どうしよう、私縄抜けの方法も知らないし、関節の外し方も知らないし……
……ん?ちょっと待て、待て待て待て。
なんで、私手が使えてんの?!
冷静に自分の身体を見る。
……縄は、まるでベルトのように私の腰だけに巻きついている。
手も足も自由だ。
「……ば、ばっかじゃないの?!」
思わず叫ぶ。
だ、だって、普通こういうときって、手首足首とかを縛って逃げられないようするんじゃないの?!
それとも何?
「ウエストがちょっと気になるから、縛って細く見せてあげたよ」とか?
……余計なお世話ですっ!!
「と、ともかく!これで脱出……」
「13分22秒」
「……は?」
突然、どこからか男の子の声が聞こえてきて、首を傾げる。
キョロキョロとしていると、後ろからコツコツと、足音が聞こえてきた。
振り向くと、私より少し小さい少年。
「アンタが意識を取り戻してから、それに気づくまで13分22秒。……頭、空っぽなんだな」
「なっ……!!」
ふっと馬鹿にするように笑われ、顔が熱くなる。
……こっのクソガキぃ……人のこと馬鹿にしやがって……っ!!
フルフルと拳を握って殴りたい衝動に駆られるが、我慢。……私って大人!
「……全く、兄さんはなんでこんな阿呆を……」
「にいさん?」
じーっと少年を眺める。……うーん、誰かに似ているような……似ていないような。
「……しょうがないか、兄さんはお人よしだから」
お人よし、の言葉で真っ先に思いついたのが1人。
「ああ、魔王様の弟か」
言われてみれば、魔王様に似ているような気がする。
……性格は魔王様に全然似てないけどなッ!
うんうん、と納得している私に魔王様の弟は冷や汗を流す。
「……な、なんでわかった」
「あ、やっぱり?」
「お、俺をはめたな!!」
別にはめてはない。
「……くっそ、そうやって兄さんを誑かしたんだな!」
「誑かしてません」
ていうか、最近放置され気味です。
もちろんそんな心の声が届くわけもなく、魔王様の弟はむっとした顔をする。
「はっ!騙されると思うなよ、ササキ」
……ん、佐々木?
「……私、佐々木じゃないんですけど」
「……え」
「ちなみに、佐々木君はイケてるメンズです。……つまりは男です」
すると、魔王様の弟の顔は一瞬で真っ青になった。
「……兄さんって、同性愛者だったのか?」
な、なぜそうなるの?!普通に友だち、って思わないの?!
……いや、待てよ。
そういえば、最近魔王様と佐々木君妙に仲よしだよなぁ……
私なんていっつも蚊帳の外なのに。
……いやいやいや!!まさか!まさか!……まさか?
「……有り得る」
思わずボソリと呟くと、魔王様の弟の顔はますます青くなる。
……私もサァっと血の気が引いていった。
……いやいやいや!偏見なんて持ってないよ?!
ヒトヲスキニナルコトニリユウナンテイラナイヨ!
……ごめん、カタコトじゃ説得力無いね。
「……お前たち、人で変な想像をするな」
「ひっ!!」
魔王様の弟と声が重なる。
……い、いつも突然ですよね。魔王様
◇ ◇ ◇
「兄さん、どうしてここに?」
魔王様の弟は若干目を輝かせて魔王様に駆け寄ります。
……その姿はまるで犬です。わんわんです。
「アカリを探していたんだ」
「へ?私に何か用ですか?魔王様」
魔王様の言葉に、魔王様の弟は途端に元気を無くしました。
……しょんぼりしてます。負のオーラも見えます。
きっと、彼は自分に用事があると言ってもらいたかったのでしょう。
……ふふん!ちょっと優越感を感じます。
「アカリ、クラウスが探してたぞ」
……なんだ、用があったのは魔王様じゃないんだ。
朱莉、ちょっぴりセンチメンタル。
っていうか、クラウスさんまた来たんですか?いい加減しつこ……げふん。
いやいや、もしかして他に言うことがあるのでは?!
……さっさと行けと目で言われました。しょんぼり。
「……ところで。フリッツ」
「は、はい。なんですか?兄さん!」
……フリッツって誰?ああ、弟君か。扉から出ようとして、立ち止まる。
声からしてフリッツ君は話しかけられてとっても嬉しそうだ。……くぅ、羨ましい奴め。
「どうして俺が同性愛者になるんだ?」
……ええっと。私しーらないっと。
◇ ◇ ◇
私に会いに来たクラウスさんによると、フリッツ君は大のお兄ちゃん子らしい。
……ああ、かまってもらえなくて寂しかったのかフリッツ君。
優しい優しい朱莉ちゃんは次の日フリッツ君に会いにいってあげました。
……お前なんか大嫌いだっ!って怒鳴られたんだけど、なんで?
あと、どうしてだか魔王様に「俺は男色じゃない」と言われた。
……ナンショクって何?佐々木君に聞いたら「これじゃないか?」と綺麗な字で書かれた[難色]。
うん、わからん。