Lv6・双子の悪魔と修羅場
拝啓 母上様と父上様
先日クラウスという名のバンパイアに球根……ではなく求婚された日向朱莉です。
この国では20歳からでないと結婚できないそうで、待ってくれるらしいです。
……あれ?私の意思は?というか、クラウスさん何歳よっ!!
とか思いましたが、3年です。3年。
中学入学してから、卒業するまでの期間ですよ?
高校入学してから、卒業するまでの期間ですよ?
……その間にきっとクラウスさんは別の伴侶を見つけてますよ!……み、見つけてますよね?
まあ、ひとまずこの話は置いておいて。
……ええ、いつもの展開でございます。
ついでに言えば、魔王様不在でございます。
……というか、最近私と魔王様の会話少なくない?気のせい?
「貴方、聞いてますの?!」
はいはい、聞いてます。聞いてますよ、お嬢さん。
「……で、私は何をすればいいのかな?アリスちゃん」
引きつらないように、にっこりと笑って言えば、目の前の、頭には角、背中には黒い翼、腰のあたりには尻尾という姿の美少女は、顔を真っ赤にして言った。
「夫役ですわ!!」
……あの、私女なんですけど。
◇ ◇ ◇
「あ、アリスちゃん……」
「違うでしょう、エミリオ!"お義母さま"でしょう?!」
「ご、ごめんね……えっと、"お義母さま"?」
「もう!そうやっておどおどしてるから、"息子"が他の女のところへ行ってしまうのよ!」
「ご、ごめんね。アリスちゃん……」
「"お義母さま"だってば!!」
……いったい、どこから突っ込めばいいのでしょうか?
と、とりあえずこの2人の紹介からしておきましょうか。
えっと、双子のアリスちゃんとエミリオ君。種族は悪魔(多分)
迷子かなぁ?と近付いたのが運の尽き。
「貴方、わたくしたちと遊びなさい!」と指を指され、アリスちゃん達と遊ぶはめに。
……だって、今忙しいからって言ったら「遊んでくれるまでココから動きませんわ」だよ?(なに、この我儘な子)
エミリオ君は何も言わなかったけど、潤んだ目でこっちを見てくるし。
ここまでされたら遊んであげないといけないでしょう?って了承したのです。
と、いうことで、おままごとを始めたんだけど……まず、配役おかしくない?
だってさぁ。
アリスちゃん→姑。エミリオ君→妻。私→夫。
……おかしいよね?絶対おかしいよ!
その上設定がなんだか酷い。
夫(つまり私ね)は浮気性で、女をとっかえひっかえするの。
仕事上の付き合いだなんだかんだ言って浮気を繰り返す、最低な夫。
妻(これはエミリオ君)は、夫のことを愛してるんだけど他の男に優しくされてそちらに心が移りそうになるの。
それでも夫が一番だからって交際を求められてもきっぱりと断る、なんだか健気な妻。
姑(アリスちゃんの役)は鬼姑って言うのかな。
息子(つまり夫のことね)が浮気をするのは貴方のせいなのって、とにかく妻をいびるの。
……ちょっ、なに、この泥沼になりそうな設定。っていうか、妻可哀想!
普通さ、おままごとって。
『ただいまー』
『あら、おかえりなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?(ウインク)』
……みたいなベタベタなあまーい展開とかするんじゃないの?!最近は違うの?!
「……あら、息子が帰ってきたみたいだわ」
アリスちゃんのその言葉で私は現実に戻ってきた。
「えっと……た、ただいまー」
「お、おかえりなさい」
エミリオ君が少し照れながら、そう言ってくれる。……なんだか可愛い。
ちらり、とアリスちゃんを見ると……鋭い目で睨んでいた。え、なんで?
「今までどこをほっつき歩いてたの?!もう朝の4時よ!!」
「えっ?!」
エミリオ君と私の言葉が重なる。
そ、そんな時間まで起きてたんですか貴方達……っていうか、私朝帰り?!
「エミリオの誕生日に朝帰りだなんて、なにを考えてるの?!」
「えっ?!」
再び声が重なる。な、なにその設定!!夫ひどすぎっ!!
「えぇっと、知り合いのとこに泊めてもらってて……」
「う、うん!アリスちゃ……じゃなくて、"お義母さん"。実はアカリさんから連絡あったんだ!」
どうにか歪んでいる設定を元に戻そうと頑張る私たち。
と、思っていたら突然アリスちゃんが私の服を引っ張った。
「あーら!こんなところに口紅をつけてっ!!知り合いって結局女のところじゃないっ!!」
……ちょ、なんか姑が妻化してるんですけど?!
もはや修羅場間違いなしの展開の最中、ドアの開く音を聞いた。
「日向ー、そろそろ昼食だって……何やってんだ?」
……タイミング悪すぎです。佐々木君。
◇ ◇ ◇
キラリ、とアリスちゃんの目が煌めいた、と思ったら佐々木君に詰めよる。
「貴方ね!わたくしの"息子"をたぶらかしたのは!」
「たぶらかす?」
……新たな役決定。夫と不倫している女→佐々木君。
「よくわかんないけど、日向、昼食……」
「まあ!認めるのね?!」
認めてません。
「あ、アリスちゃん。お、落ち着いて……」
「アカリ、"お母様"でしょう?!」
「お母様?……ああ、ままごとしてんの?」
……状況を理解していただけたようで、とても嬉しいです。
どうか、このお嬢さんの暴走を止めてください。
私は佐々木君にテレパシー(という名の視線)を送る。
……佐々木君は、理解したのか軽く頷いた。
「……ま、まさか妻帯者だったなんて……!」
声を少し裏返しながら、よよよ、とよろめく佐々木君。
佐々木君、君って意外とノリがいいんですね。……じゃなくって!
「まあ!貴方、騙されていたのね!!」
完全に私(というか夫なんだけど)悪者!!
ちらり、とエミリオ君の方を見ると申し訳なさそうに視線を逸らされた。
ほ、矛先が私に向かう?!そう思って、私は身構えた。
「昼食だと言うのに、何をしているんだ?!」
ま、魔王様!!
……ええ、ええ!最後は助けに来てくれると思ってましたよ!魔王様!!
「お父さん!!アカリが2人の女性をたぶらかしたのよ!」
……え、魔王様→舅ですか?
「……そうか、アリス。それは、きっちりとお説教をしないといかんな」
……え、何言ってんの。魔王様。
「だが、エミリオとササキに聞かせることではなかろう。2人は連れてってもいいな?」
「お、お父さんがそういうのなら……ええ。わかりましたわ」
「ああ、頑張ってくれ」
……え、どういうこと?
魔王様はエミリオ君と佐々木君を連れて部屋を出ていく。
……それから3、4時間。私はアリスちゃんに"良い夫とは"について長々と聞かされた。
そして、満足した様子の彼女はエミリオ君と一緒に帰っていく。
げっそりとした私は、泣きながらおやつのケーキを食べた。しょっぱかった。