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Lv3・勇者様(?)に出会う





拝啓 母上様と父上様

私、日向朱莉は昨日から魔王様の住む城に住まわせていただいてます。

服も(ドレスみたいな)立派なモノをいただきましたし、食事も豪勢だし、文句のつけどころがありません。

何不自由なくここで生活できると思っていたのですが。

……ああ、今の状況が信じられません。

なんで魔王様が留守のときに限ってこんな輩がこんなところに訪れたのでしょうか?



「魔王!この世界のためにお前を倒す!」



私、魔王じゃないっ!―――というか



「……なにやってんの、佐々木君」



彼は私の同級生です。






 ◇ ◇ ◇






佐々木君はそれはそれは立派な格好をしておりました。

RPGでいう勇者のような、なかなか素敵な格好です。

佐々木君はその平凡な名字から考えられないほどのイケメンでした。

……魔王様には劣るけどね!



「……なんで、日向がここにいるわけ?」

「こっちが聞きたいよ。なに、その格好。似合ってるから許すけど」

「あ、どうも……じゃなくって!なんだよ、お前が魔王?勘弁してくれよ……」



勘弁してもらいたいのはこっちだ。



「魔王様はお出かけ中です」

「……何で魔王が外に出るんだよ。待っとけよ。俺どうすればいいんだよ」



そんなの知るか。



「……とりあえず、お茶でも用意しようか?」

「……なんでこんな場所にお茶なんかあるんだよ」



ごもっともだ。

この状態だときっと彼は魔王様に会ったらもっと混乱するだろう。



「まあ、とりあえずその剣しまいなよ。佐々木君」



私がそう言うと、彼は黙ってその剣をしまう。

……おお、なんとなく様になってるぞ。剣道部主将。



「で、どうして佐々木君はこんなところにいるの?場合によっては相談にのるよ」



私みたいにプップー!でドカン!みたいな展開で家に帰れないなら、魔王様に頼めば部屋くれるし。

……でもなぁ、立派な装備だしなぁ。それはないかぁ。

佐々木君は、戸惑いながらも口を開いた。



「……信じてもらえないかもしれないけどな、実は」



佐々木君はそう前置きをして話しだした。






 ◇ ◇ ◇






佐々木君は学校から家へ戻る途中に、誰かに呼ばれた気がしたらしい。

なんだろう、と首を傾げていると突然光に包まれて、知らない場所にいたそうな。

そこにいたのは、とてもとても美しい女性。

そして、彼女は佐々木君に向かって「ああ、勇者よ」と潤んだ目で言うと、

「貴方をずっと待っておりました」と微笑んで、佐々木君をそこから連れ出したそうだ。

その後、立派な服やら宝石やら渡されて、いりませんと佐々木君が断ると

「なんて謙虚なお方!」といって泣きだしたそうな。

周りの人は生温かい目で見てくるし、なんなんだと思ったまま1日が終わる。

そして次の日、佐々木君はその女性の父親と思われる人に呼ばれたそうな。

父親と思われる人は今佐々木君の来ている装備を渡すと、

この世界のためにこの場所にいる魔王を倒してほしいと頼まれたらしい。

断っても、「勇者にしかできないことなのだ」と言われて

「君には女神の加護があるから絶対に死なない」

とまで言われたので仕方なくここまで来たらしい。



「………」



全然私の状況と違うっ!!!

なになになに?その、王道な設定!

私なんて、「ああ、雨が降り出しそうだなぁ」ってよそ見しててドガン!だよ?!

……贔屓だ。イケメン贔屓だ。あ、いや別に私はイケメンになりたいわけじゃないけどね。



「そういうわけで、ここにいる魔王を倒さないといけないんだ」

「やめたほうがいいぞ」



うん、やめたほうがいい。

……あれ?今、誰が言った?

顔をあげると、佐々木君の後ろに、いつの間にか魔王様が立っていた。



「魔王様!いつ帰ってたんですか?!」

「そこの小僧が『この世界のためにお前を倒す!』と言っていたときには」



……最初っからじゃん!!



「で、小僧」

「はっ……はい……」



おお、佐々木君がびびってる。

そりゃあそうだ。倒す、と宣言した魔王様がそこにいるんだからね。

でも、大丈夫だよ。佐々木君。その魔王様、変だから。



「まず最初に言っておくが、お前の会った女性はおそらくこの国の姫。

酔狂な趣味を持つ、おかしな女だ」

「酔狂な……?」

「相当な面食いらしい。国中の顔立ちの良い男だけでは足りんらしく、

異世界から顔立ちの良い男を呼びだそうと勉学に励んだらしい。

最近そのような術を編み出したという噂が流れておったが、小僧が第一号のようだな」

「え」

「その女の父親のような男は多分王だろう。奴は相当娘を溺愛しておってな、

娘に近付く不届き者を懲らしめようと躍起になっておる。

どうせ女神の加護なんぞは嘘だろう。

俺がこの腰のでお前に斬りかかったら、間違いなくお前は死ぬ」



そう言って腰の剣をぽんぽんと叩くと、佐々木君は顔を真っ青にさせた。



「運が良かったな小僧。剣を向けたのが俺でなくアカリで。

俺は、俺に危害を加えようとした者には容赦しないからな。

まあ、お前は王に騙されたらしいし、そもそも俺は争いを好まん。見逃してやろう」



その言葉に、佐々木君は目を丸くした。



「え、俺殺されないんですか?」

「……どいつもこいつも、俺をなんだと思っているんだ」



魔王、です。魔王様。それ以外になんだと思えと言うんですか。



「ともかく、小僧。姫に監禁あるいは王に殺されたくなかったら、帰るのは止めたほうがいい」



確かに。

うんうん、と私が頷いていると佐々木君は焦ったように魔王様に言う。



「え、でも……それなら俺、どうやって元の世界に戻ればいいんすか?」



……あ、その問題が残っていた。

こういう場合って、呼びだした姫様しか帰すことができないのかな?

でも、そうしたら絶対に帰れないってことじゃない?

そんなことを考えていると、魔王様はニヤリと笑った。



「俺を誰だと思っている?人間が編み出した術だ。どうにかできる。

―――まあ、時間はかかるかもしれぬがな」



……さ、さすが魔王様。






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